この記事で分かること

  • 普通借家契約が「期間満了で終わらない」仕組み(法定更新)
  • 更新拒絶に必要な正当事由の考慮要素と、立退料の位置付け(2026年8月時点)
  • 建替えを前提とした取得で発生するコストを整数設例で試算
  • 定期借家契約との対比と、海外投資家に説明する際の勘所

30秒で分かる定義

法定更新とは、普通借家契約について、貸主が期間満了前の一定期間内に更新しない旨の通知をしなかった場合や、期間満了後も借主が建物の使用を続けることに貸主が遅滞なく異議を述べなかった場合に、法律上当然に契約が更新される仕組みです。そして貸主が更新を拒絶したり解約を申し入れたりするには、借地借家法上、正当事由が必要とされます。読み方は「ほうていこうしん」「せいとうじゆう」。この2つの規律により、日本の普通借家契約は、貸主の側からは容易に終了させられない構造になっています(2026年8月時点)。

なぜ実務で重要なのか

  • アクイジション担当・バリューアッド投資家:テナントの入替えや建替えを前提に価格を組む場合、退去がいつ・いくらで実現するかが投資成否を決めます。契約書上の満了日は、退去日を意味しません。
  • デベロッパー・CRE担当:再開発では既存テナントの退去交渉がクリティカルパスになります。想定より長引けば、事業全体のスケジュールと金利負担が膨らみます。
  • 海外投資家対応・IR:欧米やアジアの多くの市場では、期間満了で契約が終了するのが原則です。日本の強いテナント保護は、説明を怠ると想定外のリスクとして受け止められます。

この規律を回避する手段が定期借家契約で、契約残存期間の指標であるWALEを日本で読む際にも、この論点の理解が前提になります。

仕組み(終了までの流れ)

場面貸主に必要な行為行わなかった場合
期間の定めがある契約の満了期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新しない旨を通知する従前と同一の条件で更新されたものとみなされる(期間の定めのない契約になる)
通知後も借主が使用を継続遅滞なく異議を述べる更新されたものとみなされる
期間の定めのない契約解約を申し入れる(申入れの日から6か月経過で終了)契約は継続する
上記いずれの場合も正当事由が必要正当事由を欠けば、通知・申入れをしても終了しない
表:普通借家契約の更新拒絶・解約の流れ(借地借家法に基づく一般的な整理。2026年8月時点)

正当事由の有無は、借地借家法(更新拒絶等の要件を定める第28条)が挙げる要素を総合して判断されます。具体的には、①貸主・借主それぞれが建物の使用を必要とする事情、②賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤立退料など財産上の給付の申出です。重要なのは、立退料は正当事由を補完する一要素にすぎず、金銭を積めば必ず退去させられるという制度ではない点です。

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円)。築古のオフィスビルを4,000で取得し、既存テナント10社に退去してもらったうえで建て替える計画を検討します。年間賃料収入は240です。

  • 立退料を1テナント平均30と仮定すると、合計=30×10社=300
  • 交渉と退去に要する期間を1年と見込み、その間の賃料収入の逸失を1年分=240とする
  • 退去に関連する総コスト=300+240=540(検算:300+240=540)
  • 取得価格4,000に対する比率=540÷4,000=13.5%(検算:4,000×13.5%=540)

ここで交渉が難航し、退去完了までに2年かかった場合を考えます。逸失賃料は480となり、総コストは300+480=780、取得価格比では780÷4,000=19.5%に膨らみます(検算:4,000×19.5%=780)。1年の遅延だけで取得価格の6.0ポイント分のコストが増える計算です。さらに立退料が交渉で1テナントあたり45へ上がれば、立退料合計は450となり、2年ケースの総コストは450+480=930(取得価格比23.3%)となります。

この設例が示すのは、建替え・大規模改修を前提とした取得では、退去コストの水準よりも「いつ退去が完了するか」の不確実性の方が価格に効くということです。契約が定期借家であれば期間満了で確定的に終了するため、この不確実性は大幅に縮小します。

投資判断・出口戦略への影響

普通借家のテナントが多い物件では、テナント入替えや用途転換を前提とした収益改善計画(バリューアッド戦略)の実現時期が読みにくくなります。したがって、取得時のデューデリジェンスでは、レントロールの各契約について普通借家か定期借家か、残存期間、更新条項、中途解約権、賃料改定条項を1件ずつ確認するのが実務です。ここで契約種別を確認せずに「残存2年だから2年後に退去する」と前提を置くと、事業計画が根本から崩れます。
一方で、この規律は貸主にとって不利益ばかりではありません。テナントが長く居続けることは、稼働率の安定と再リーシングコストの低さにつながります。日本のオフィスは契約期間が短くWALEが小さく出ますが、実際の平均入居期間はそれより長いのが通常であり、この点を数値で説明できるかどうかが、海外投資家向けのアンダーライティングの質を分けます。

実務での確認手順

  • 契約種別の列を必ず作る:レントロールに「普通借家/定期借家」の列を追加し、定期借家については契約書面の有無と事前説明の履践を確認します。要件を欠く定期借家は普通借家として扱われる可能性があります。
  • 退去シナリオをモデルに置く:Excelでは、退去完了時期を入力セルにし、①立退料、②逸失賃料、③解体・工事着工の遅れによる金利負担、の3つを連動させます。設例のように、遅延1年あたりのコストを1行で示せるようにします。
  • 感応度は「時期」と「単価」の2軸で:立退料単価と退去完了年の2軸で総コストの感応度表を作ると、価格交渉で譲れる範囲が明確になります。
  • 専門家の関与:正当事由の判断は個別事案の事実認定に依存します。建替えを前提とする取得では、弁護士の見解を得たうえで事業計画を組むのが実務です。

この用語を実務で「使える」状態にする

退去時期の不確実性を立退料・逸失賃料・金利負担に分解し、建替え前提の取得価格を自分で説明できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

  • 誤解「契約期間が満了すれば退去してもらえる」→ 普通借家では更新されるのが原則。貸主からの更新拒絶には正当事由が必要で、通知を怠れば従前と同一条件で更新されます。
  • 誤解「立退料さえ払えば退去させられる」→ 立退料は正当事由を補完する一要素。貸主側に建物使用の必要性がまったくない場合など、金銭給付だけで正当事由が認められるとは限りません。
  • 確認ポイント:定期借家の要件充足。定期借家契約は、契約書面のほか、更新がない旨を記載した書面をあらかじめ交付して説明することが求められます。手続の不備は、期間満了で終了させられないという重大な結果を招きます。
  • 確認ポイント:賃料改定と更新の関係。法定更新後は期間の定めのない契約となりますが、賃料は当然には変わりません。賃料水準の是正には賃料増減額請求の枠組みを使うことになります。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)借地借家法は建物賃貸借について借主保護を厚くしており、貸主からの更新拒絶・解約申入れには正当事由を要します。この規律を契約で排除することはできず、当事者の合意でも借主に不利な特約は効力を否定され得ます。実務上の唯一の正面からの対処は、契約締結時に定期借家契約を選択することです。定期借家は、書面による契約と、更新がない旨を記載した書面をあらかじめ交付して説明することが要件とされており(書面については、法改正により一定の要件のもとで電磁的方法によることも認められています)、要件を満たせば期間満了で確定的に終了します。実務では、オフィス・商業施設で定期借家が広がる一方、既存の普通借家契約はそのまま残っているため、取得検討時には両者が混在するレントロールを1件ずつ精査することになります。海外投資家に対しては、契約期間の短さと解約リスクの高さは別問題であること、退去を前提とする計画では時期の不確実性を価格に織り込むこと、の2点を数値で説明するのが実務的です。市場データの見方は商業用不動産のマーケット分析、賃貸借契約の確認項目の整理は不動産投資分析でAIを使うで扱っています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:日本の普通借家契約で、貸主が更新を拒絶するには何が必要ですか?
「期間満了の1年前から6か月前までの間に更新しない旨を通知したうえで、正当事由が認められることが必要です。正当事由は、双方が建物の使用を必要とする事情、従前の経過、建物の利用状況と現況、立退料の申出などを総合して判断されます。通知を怠れば従前と同一条件で法定更新され、期間の定めのない契約になります。この規律を避けるには、契約締結時に定期借家契約を選択する必要があります。」(30秒回答例)

深掘りでは「建替えを前提とした取得で価格をどう調整するか」(退去時期の不確実性を割引率ではなくキャッシュフローの遅延で表現する)、「日本のWALEが短く出ることの解釈」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 既存の普通借家契約を、更新時に定期借家契約へ切り替えられますか?
A. 借主の合意があれば新たに定期借家契約を締結すること自体は可能ですが、借主にとっては保護が失われる変更であり、合意を得るのは容易ではありません。また、居住用建物については切替えに制約が設けられている場面があります。実務では、賃料条件など他の条件との交換で交渉されることが多く、法務の確認が欠かせません。

Q. 建物が老朽化していれば正当事由は認められますか?
A. 建物の現況は考慮要素の一つであり、老朽化の程度や安全性の問題は貸主側の事情として評価され得ます。ただしそれだけで自動的に認められるわけではなく、双方の使用の必要性や従前の経過と併せて総合的に判断されます。個別の見通しは弁護士に確認してください。

出典・参考(2026-08確認)

  • e-Gov法令検索「借地借家法」(https://elaws.e-gov.go.jp/)
  • 法務省(民事法制に関する情報)(https://www.moj.go.jp/)
  • 国税庁(立退料の税務上の取扱いに関する解説)(https://www.nta.go.jp/)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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