この​記事で​分かる​こと

  • グラス・スティーガル法(1933年銀行法)の内容と、1999年のグラム・リーチ・ブライリー法による見直し
  • 日本の銀証分離(金融商品取引法第33条)と、登録金融機関・証券子会社の位置付け
  • ファイアウォール(弊害防止)規制が防ぐ利益相反を、整数設例で確認
  • ボルカールールなど、その後の規制との関係

30秒で​分かる​定義

グラス・スティーガル法(Glass-Steagall Act)は、1933年銀行法(Banking Act of 1933)の通称で、米国で商業銀行業務と投資銀行(証券)業務を分離した法律です。読み方は「ぐらす・すてぃーがるほう」です。SEC(米国証券取引委員会)の規則制定文書は、これにより米国の商業銀行と投資銀行は60年以上分離されたと説明しています。[1]1999年11月12日に署名されたグラム・リーチ・ブライリー法(GLBA)が、銀行と証券会社の系列関係を禁じた第20条と第32条を廃止しました。[1]日本の「銀証分離」とは別の制度で、本ページでは米国の法律を中心に、日本の規制との違いを扱います。

なぜ実務で​重要なのか

この法律は、現在の大手金融グループの形(商業銀行と証券会社を同じ持株会社の下に置く形)を理解する歴史的な前提です。投資銀行(IB)やFIG担当は、米国のメガバンクがIB業務を持つ経緯を理解する必要があります。PE・ファンドは、銀行系ファンドや融資規制(ボルカールール)の背景として使います。融資・DCM担当は、同一グループ内での融資と証券引受の利益相反をどう管理するかを確認します。投資銀行の分類は投資銀行の​ティア分類で、グループ内の情報遮断はエシカルウォールで扱います。

計算式​(または仕組み)

数式のない制度用語のため、制度の変遷を表で整理します。

時期・制度内容主なポイント
1933年銀行法(米国)商業銀行業務と証券業務の分離第20条は商業銀行と証券会社の系列関係を禁止(SECの説明)
1999年GLBA(米国)第20条・第32条を廃止銀行・証券・保険が同じ金融持株会社の下に入れる。ただし銀行と証券の間の障壁は「完全には取り除かれていない」とSECは説明
日本(現行)銀行等の有価証券関連業・投資運用業を原則禁止(金融商品取引法第33条第1項)書面取次ぎ・国債等の一定の業務は例外(同条第2項)。登録金融機関として登録(第33条の2)。証券専門会社を子会社にできる(銀行法第16条の2)

SECの文書は、GLBAが第20条と第32条を廃止したと記し、第20条は商業銀行と証券会社の系列関係を禁じていたと説明しています。[1]一方、日本の金融商品取引法第33条第1項は、銀行・協同組織金融機関等は有価証券関連業又は投資運用業を行ってはならないと定め、第2項で書面取次ぎ行為や一定の有価証券・取引に係る行為には適用しないとしています。[2]銀行法第16条の2第1項は、銀行の子会社にできる会社の範囲を定め、有価証券関連業を専ら営む「証券専門会社」もこれに含まれます。[3]つまり日本は、銀行本体での証券業務を制限しつつ、子会社方式での兼営を認める方式です。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。単位は百万円。銀行グループが証券子会社を持つときの利益相反(弊害)を数字で見ます。

①貸出の借換え:銀行が取引先に1,000の貸出を持っているとします。証券子会社が同額1,000の社債を引き受け、その発行代金で貸出が返済されると、銀行の信用リスク1,000は社債投資家に移ります。引受手数料率を1.0%とすると、証券子会社の手数料は1,000 × 1.0% = 10です。銀行と証券会社が同じグループにあると、銀行が自行のリスクを減らすために、投資家に不利な条件で社債を売る誘因が生まれ得ます(古くから懸念されてきた利益相反の典型例とされます)。

②抱き合わせ:銀行が融資枠1,000の提供を条件に、取引先が証券子会社と株式の引受契約(引受手数料50)を結ぶことを求めたとします。取引先の実質的な追加負担は、50 ÷ 1,000 = 5.0%(融資額に対する手数料の割合)に相当します。金融商品取引法第44条の3は、金融商品取引業者(証券会社)が、親法人等(銀行等)が契約の締結を条件に顧客へ信用を供与していると知りながらその顧客と契約することを、内閣総理大臣の承認がない限り禁じています(第1項第2号)。対象は第2条第8項各号の行為(第6号の有価証券の引受け等)に関する契約です。M&Aの相談・仲介は第35条第1項第11号の付随業務に当たるため、FA契約がそれだけで本号の対象になるとは限りません。[2]

開示・​規制上の​位置付け

日本の弊害防止措置は、親法人等・子法人等の関与する行為の制限(金融商品取引法第44条の3)などで、通常の取引条件と異なる取引や、親会社・子会社の利益のための不要な取引の助言・運用を禁じます。[2]米国でも、SECはGLBAが銀行と証券業の間の障壁を引き下げたものの完全には取り除いていないと説明しており、GLBA後も一定の規制が残ります。

2008年の金融危機の後、米国ではドッド・フランク法に基づくボルカールールが導入され、一般に銀行グループの自己勘定取引等を制限する規制として知られています。詳細はボルカールールのページで扱います。グラス・スティーガル法の全面復活ではなく、特定の業務を限定した規制である点が違いです。

実務での​調べ​方・​確認手順

  • グループ構成の確認:有価証券報告書やグループ会社一覧で、銀行・証券・信託の子会社構成と、登録金融機関か証券専門会社かを確認します。
  • 条文の確認:金融商品取引法第33条・第33条の2・第44条の3、銀行法第16条の2を、e-Gov法令検索で最新の条文と施行状況を見ます。
  • 海外グループの確認:米国の金融持株会社の場合は、GLBAとボルカールールの適用範囲を、各社の公開資料(10-K等)で確認します。
  • 案件でのチェック:同じグループが融資と引受・FAを兼ねる案件では、エシカルウォールと利益相反の管理方針を確認します。

この​用語を​実務で​「使える」​状態に​する

銀行・​証券の​グループ​構造と​規制の​違いを​整理し、​融資と​引受・FAを​兼ねる​案件の​利益相反を​確認できるようになる。

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実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「グラス・スティーガル法は完全に廃止された」→ 正しくは、1999年のGLBAで主要な条文(第20条・第32条)が廃止されたもので、銀行と証券の間の障壁が完全に消えたわけではありません。SECの文書も、GLBAは障壁を引き下げたが完全には除いていないと説明しています。[1]

誤解2:「日本にグラス・スティーガル法がある」→ 正しくは、日本の銀証分離は金融商品取引法第33条などの別の制度です。日本の制度は子会社方式の兼営を認める点で、米国の旧制度と異なります。

誤解3:「ボルカールールはグラス・スティーガル法の復活」→ 正しくは、ボルカールールは自己勘定取引等を制限する別の規制です。銀行と証券会社の系列関係を禁止するものではありません。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)日本では、銀行・協同組織金融機関等は原則として有価証券関連業・投資運用業を行えず、書面取次ぎや国債等に関する一定の業務を行う場合は登録金融機関として内閣総理大臣の登録を受けます(金融商品取引法第33条、第33条の2)。[2]銀行は、証券専門会社を子会社とすることができます(銀行法第16条の2第1項)。[3]M&Aや引受の場面では、銀行と証券会社の情報の遮断(エシカルウォール)と、前述の弊害防止措置の遵守が実務の前提です。米国の制度を日本の取引にそのまま当てはめず、日本の条文で確認してください。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:グラス・スティーガル法とは何で、なぜ撤廃されたのですか。
「1933年に米国で商業銀行と投資銀行の業務を分離した法律です。1999年のグラム・リーチ・ブライリー法で銀行と証券会社の系列関係を禁じた条文が廃止され、金融持株会社の下で銀行・証券・保険を兼営できるようになりました。金融の統合が進み、規制が実態に合わなくなったという議論がありました。」

深掘りの観点:2008年の金融危機との関係の評価は分かれること、ボルカールールとの違い、日本の銀証分離との違い。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. グラス・スティーガル法はいつ制定されましたか?
A. 1933年の銀行法(Banking Act of 1933)の通称です。1999年にグラム・リーチ・ブライリー法が第20条・第32条を廃止しました。

Q. 日本の銀行は証券業務をできますか?
A. 銀行本体は金融商品取引法第33条により有価証券関連業を原則行えませんが、書面取次ぎや国債等の一定の業務は登録金融機関として行え、証券専門会社を子会社にもできます。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. SEC “Definition of Terms in and Specific Exemptions for Banks, Savings Associations, and Savings Banks Under Sections 3(a)(4) and 3(a)(5) of the Securities Exchange Act of 1934″(Release No. 34-44291). https://www.sec.gov/files/rules/final/34-44291.pdf(2026年11月参照)
  2. e-Gov法令検索「金融商品取引法」第33条・第33条の2・第44条の3. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)
  3. e-Gov法令検索「銀行法」第16条の2第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=356AC0000000059(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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