この​記事で​分かる​こと

  • エキスパートネットワークの定義と、事業DDでの役割
  • 依頼から分析までの流れと、質問設計・裏付けの考え方
  • 解約率の見立てが売上に与える影響を整数設例で確認
  • 金商法の内部者取引規制・不正競争防止法の営業秘密など、情報の取扱いの注意点

30秒で​分かる​定義

エキスパートネットワーク(Expert Network)とは、業界の経験者や専門家への有償インタビューを仲介するサービスです。インタビューはエキスパートコールやエキスパートインタビューと呼ばれ、PEファンドや投資家のデューデリジェンス(DD)、コンサルティング会社や事業会社の市場調査で使われます。

本ページは、事業DD(コマーシャル​DD)での使い方に絞り、質問設計、コンプライアンス手続、情報の扱いを扱います。

なぜ実務で​重要なのか

PE・IB・FAS・コンサルは、短い期間の案件で、顧客・競合・価格・業界構造などの一次情報を得るために使います。経営陣の資料やデータルームだけでは見えない、買い手・売り手の外側の見方を取り入れられる点が価値です。投資家(ヘッジファンドや運用会社)は、業界の動向を確認するために使います(チャネルチェックに近い目的)。

計算式​(または仕組み)

エキスパートコールは、一般に次の流れで進みます。

段階内容確認ポイント
① 依頼対象業界・役職・経験年数と、検証したい質問をネットワークに伝える質問が仮説に結びついているか
② 専門家の選定ネットワークが候補を提示し、依頼者が選ぶ現職か元職か、立場の偏り、経験の新しさ
③ コンプライアンス審査所属先、守秘義務、利益相反、未公表の重要情報の取扱いを確認する各社の規程と、依頼者側の社内ルール
④ 通話・記録時間単位で実施し、記録やメモを残す録音・記録の可否、個人名・社名の取扱い
⑤ 分析複数人の回答を照合し、事業計画の前提に反映する裏付けの数、バイアスの補正

質問設計では、検証したい仮説(例:顧客の解約率、価格改定の余地)から逆算し、誘導質問を避け、数値は「範囲」と「根拠」を聞きます。単一の専門家の意見を事実として扱わず、立場の異なる複数人で裏付けるのが基本です。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。売上100億円の対象会社の経営陣が「年間解約率は5%」と説明しています。元顧客・元営業のエキスパート10名にインタビューしたところ、解約率の見立ての中央値が15%でした(架空の回答)。

ここでは解約率を、既存顧客売上が毎年その率で減る「売上ベース」の率として扱い、単価の変動や追加販売はないと仮定します(顧客数ベースの解約率なら、顧客単価や顧客構成の仮定を別に置きます)。解約率5%なら、新規獲得を除いた3年後の既存顧客売上は100×0.95の3乗=約85.7億円、15%なら100×0.85の3乗=約61.4億円で、差は85.7−61.4=約24.3億円です。この差が事業計画と価格に与える影響を、感度として確認します。

ただし、10名の回答は標本が小さく、解約した顧客に偏る可能性があります。回答は事実ではなく仮説の補強材料として扱い、顧客データなどの客観資料と照合します。

案件​プロセス​上の​位置付け

PE案件では、入札・DDの段階で、経営陣資料から立てた市場・競合・顧客の仮説を、エキスパートコールで検証します。結果は事業DD報告書にまとまり、事業計画の修正、バリュエーション、契約条件(価格調整や表明保証)に反映されます。

案件情報の取扱いも重要です。ディールチーム内の情報管理はエシカルウォールが扱います。対象会社名を専門家に伝えるか、匿名で聞くかは、秘密保持契約と案件の性質で決めます。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

ExcelやCRMでは、コール記録表を作ると、回答の裏付けと偏りを管理できます。

  • 列の例:コール日、専門家ID(匿名)、立場(元顧客・元競合など)、テーマ、回答(数値)、根拠の有無、確度の評価。
  • 集計:=MEDIAN(回答範囲)、=AVERAGE(回答範囲)、=COUNTIFS(立場列,"元顧客",テーマ列,"解約率")で件数を確認。
  • 感度:解約率を5%・10%・15%と変えて、3年後の売上を並べる(設例の85.7億円と61.4億円を再現)。

この​用語を​実務で​「使える」​状態に​する

事業DDで​集めた​一次情報を、​仮説の​検証と​事業計画の​前提に​結びつける​流れを​説明できる。

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実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「専門家の話は事実」→ 個人の経験と見解であり、立場の偏りや古い情報を含みます。複数の専門家で裏付け、客観データと照合します。

誤解2:「情報をもらうだけなので法的リスクはない」→ 上場会社の重要事実の伝達を受けた者の売買は、金商法で禁じられる場合があります。専門家が相手先の営業秘密を話すことも問題になり得ます。

誤解3:「質問は何でもよい」→ 特定の未公表の数値や、専門家が守秘義務を負う情報を求めない設計にします。公開情報、一般的な業界知識、本人の経験・知識のうち守秘義務や営業秘密に抵触せず適法に話せる範囲で聞くのが基本です。本人の経験であっても、前職・現職で得た秘密情報が含まれていれば聞いてはいけません。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)日本では、会社関係者(役員・従業員など)であって、上場会社等の業務等に関する重要事実を職務に関し知った者は、その公表後でなければ売買等をしてはならないとされています(金商法第166条第1項)。会社関係者でなくなった後1年以内の者も同様です(同項後段)。元職者だから安全とは限りません。また、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者も、公表前の売買等が禁じられます(同条第3項)。他人に利益を得させる目的などで重要事実を伝達し、または売買を勧める行為も禁止されています(第167条の2第1項)[1]。

営業秘密は、不正競争防止法で「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されます(第2条第6項)[2]。専門家が前職や現職で知った情報を話す場合、これに当たらないかの確認が必要です。実務では、上場会社の現職の役員・従業員を対象外とするか、追加の審査を課す運用が一般的とされるため、各社の規程を確認します。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:事業DDでエキスパートコールを使うときの注意点は何ですか。
「質問を検証したい仮説に結びつけ、複数の立場の専門家で裏付けることです。専門家の回答は個人の見解なので、事実としては扱わず、顧客データなどの客観資料と照合します。コンプライアンスでは、未公表の重要事実や営業秘密を聞かない、現職者の扱いを社内ルールに従って審査する、記録を残す、という点を守ります。」

深掘りされる観点:①エキスパートコールが事業DDの結論に与える影響、②標本の偏りへの対処、③情報管理(バイサイド・​サーチマンデートとの関係)。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 何人くらいにインタビューすればよいですか。
A. 決まった人数はなく、案件の規模、検証する論点、時間で決めます。立場の異なる複数人に聞き、回答が割れる論点は追加で確認するのが一般的です。

Q. 対象会社の名前は専門家に伝えますか。
A. 案件の秘密保持の観点から、匿名で聞くことが多いとされます。聞く内容によっては社名なしでは検証できないため、秘密保持契約と社内ルールに従って判断します。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 金融商品取引法 第166条第1項(後段を含む)・第3項、第167条の2第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)
  2. 不正競争防止法(平成5年法律第47号)第2条第6項(営業秘密の定義). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000047(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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