この記事で分かること

  • EVA(経済的付加価値)の定義と計算式(NOPAT−資本コスト額)
  • 整数設例による手計算と、ROIC−WACCスプレッドとの関係
  • ROE・当期純利益との違い——「資本コストを引いた後の利益」という発想
  • 日本企業での採用例と業績評価指標としての使い方・限界

30秒で分かる定義

EVA(イーブイエー、Economic Value Added:経済的付加価値)とは、税引後営業利益(NOPAT)から、投下資本に対する資本コスト額を差し引いた「資本コスト控除後の利益」のことです。会計上の利益が黒字でも、株主と債権者が要求するリターンを賄えていなければ企業価値は毀損している——という考え方を1つの金額で表します。米国のコンサルティング会社スターン・スチュワート社が提唱・商標登録した指標で、一般名称としては残余利益(Residual Income)やエコノミックプロフィットと呼ばれます。

なぜ実務で重要なのか

  • 経営企画・FP&A:事業部評価にEVA型指標を使うと、「利益は出ているが資本を食い過ぎている事業」を可視化でき、BSを意識した経営を組織に浸透させられます。役員報酬・業績評価のKPIに組み込む企業もあります。
  • 投資銀行・エクイティリサーチ:EVAはDCFと数学的に整合する(将来EVAの現在価値+投下資本=事業価値)ため、価値創造の源泉分析やROICスプレッド分析の理論的支柱になります。
  • PEファンド:バリューアップの本質は「ROICをWACC以上に引き上げ、スプレッドを拡大すること」であり、EVAの発想そのものです。

計算式

EVA = NOPAT − 投下資本 × WACC
=(ROIC − WACC)× 投下資本
  • NOPAT:みなし税引後営業利益(NOPATとは)。営業利益×(1−実効税率)が基本形です。
  • 投下資本:事業に投じられた資金。運転資本+固定資産(資産サイド)、または有利子負債+株主資本(調達サイド)で測ります。
  • WACC:負債コストと株主資本コストの加重平均(WACCの計算方法)。
  • 2つの式は同じものです。ROIC=NOPAT÷投下資本なので、(ROIC−WACC)×投下資本=NOPAT−投下資本×WACCとなります。

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円):営業利益100、実効税率30%、投下資本1,000、WACC5%の会社を考えます。

  • NOPAT=100×(1−0.30)=70
  • 資本コスト額=1,000×5%=50
  • EVA=70−50=+20百万円

もう一つの式でも検算します。ROIC=70÷1,000=7%。スプレッド=7%−5%=2%。EVA=2%×1,000=+20百万円で一致します。この会社は税引後で70の利益を出していますが、そのうち50は資金の出し手への「家賃」であり、真に価値を生んだのは20だけ——というのがEVAの読み方です。仮に投下資本が1,600に膨らみ利益が同じなら、ROICは70÷1,600=4.375%となりWACCを下回り、EVA=70−1,600×5%=70−80=−10百万円。黒字なのに価値破壊、という状態が数字で見えます。

PL・BS・CFへの影響

EVAは開示用の財務諸表には登場しない管理指標ですが、PLとBSの両方を1つの式に取り込む点が特徴です。分子のNOPATはPL(営業利益と税金)から、資本コスト額はBS(投下資本)と資本市場(WACC)から来ます。このため、利益を増やす施策だけでなく、遊休資産の売却・在庫圧縮・売掛金回収の早期化など投下資本を減らす施策(CCC改善)もEVAを改善します。PLしか見ない利益指標との最大の違いはここにあります。厳密な運用では、研究開発費の資産化やリースの調整など、会計数値への修正(アジャストメント)を加える流儀もあります。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 3行で組める:NOPAT行、投下資本行(期首または期中平均)、WACCセルの3つを参照し、EVA=NOPAT−投下資本×WACCを計算するだけです。事業部別に展開する場合は、投下資本の事業部別把握(資産の帰属整理)が実質的な作業の8割を占めます。
  • ROICツリーと接続する:EVAをROICスプレッド×投下資本に分解し、ROICをさらに利益率×回転率に分解すれば、現場のKPI(値引率・在庫日数など)まで因果の鎖でつながります(ROICと価値創造)。
  • バリュエーションへの応用:将来各年のEVAをWACCで割り引いた合計+期首投下資本=事業価値、という残余利益型の評価はDCFと同じ結論を返します。モデルの検算(クロスチェック)として有用です。

この用語をExcelで「組める」状態にする

NOPAT・投下資本・WACCからEVAとROICスプレッドを計算し、価値創造の有無を事業別に判定できるモデルを組む。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

  • 誤解「黒字ならEVAもプラス」→資本コストを引けばマイナスになりうる。設例の後半のとおり、当期純利益が黒字でもROICがWACCを下回ればEVAはマイナスです。PBR1倍割れの多くはこの状態の市場評価と解釈できます。
  • 誤解「EVAが増えれば常に良い」→短期の投下資本圧縮に偏るリスク。EVAを単年度で評価すると、将来のための投資(研究開発・成長投資)を抑制するインセンティブが働きます。複数年での評価や調整項目の設計が必要です。
  • 確認ポイント:投下資本とWACCの定義の一貫性。のれんを含めるか、期首か平均か、事業部別WACCを使うか——定義が毎期ぶれると指標として機能しません。

日本実務での扱い

日本では1990年代末以降、花王をはじめ複数の大手企業がEVA型指標を経営管理・役員報酬に採用した事例が知られています。近年は「EVA」という商標名よりも、ROIC経営・資本コスト経営という枠組みで同じ思想が広がっており、経済産業省の伊藤レポート(2014年、ROE8%の目安を提示)や、東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請(2023年3月、2026年7月時点も継続)がその制度的な追い風です。株主資本ベースの類似指標であるエクイティスプレッド(ROE−株主資本コスト、PBR1倍割れはなぜ問題か)とともに、統合報告書・中期経営計画でスプレッド系指標を開示する上場会社が増えています。なお「EVA」は商標のため、社外公表資料では「経済的付加価値」「エコノミックプロフィット」等の一般名称が使われることもあります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:EVAとは何か、当期純利益と何が違うのか説明してください。
「EVAはNOPATから投下資本×WACCを差し引いた、資本コスト控除後の利益です。当期純利益は負債コスト(支払利息)しか差し引いておらず、株主資本のコストをゼロ扱いしています。EVAは株主の要求リターンまで費用とみなすため、黒字企業でも価値を創造しているかどうかを判定できます。ROICスプレッド×投下資本と書き換えれば、価値創造の条件はROIC>WACCだと一目で分かります。」(30秒回答例)

深掘りでは「EVAとDCFの関係」(将来EVAの現在価値+投下資本=事業価値)や「単年度EVA評価の弊害と対策」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. EVAとエクイティスプレッドはどう違いますか?
A. 視点が違います。EVA(ROIC−WACC)は負債と株主資本を合わせた事業全体の視点、エクイティスプレッド(ROE−株主資本コスト)は株主の視点です。事業ポートフォリオ管理には前者、株主還元・PBR議論には後者が使われる傾向があります。

Q. EVAがマイナスの事業は撤退すべきですか?
A. 直ちにそうとは言えません。立ち上げ期の事業は先行投資でEVAがマイナスになるのが普通であり、将来のEVA改善見込み(現在価値ベース)で判断すべきです。単年度のマイナスではなく、スプレッドの改善軌道が見えるかが論点になります。

出典・参考(2026-07-20確認)

  • 経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ(伊藤レポート)」(https://www.meti.go.jp/)
  • 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」関連公表資料(https://www.jpx.co.jp/)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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