この記事で分かること

  • 治験フェーズ(Phase I〜III)の定義と、各段階で確認する内容の違い
  • フェーズが進むごとに変わる成功確率の考え方(図解)
  • 整数設例で見る、パイプライン価値評価の基本ロジック
  • 日本の薬事承認制度における位置づけ

30秒で分かる定義

治験フェーズ(Clinical Trial Phases)とは、新薬の候補物質がヒトに対して安全かつ有効であることを確認するための臨床試験を、Phase I(第I相)からPhase III(第III相)までの段階に分けて実施する制度のことです。各フェーズは目的・対象人数・確認事項が異なり、前段階の結果が良好でなければ次のフェーズに進めません。製薬企業の将来収益源となる新薬候補群を「パイプライン」と呼び、そのパイプラインが各フェーズのどこに位置するかが、企業価値評価における最も重要な変数の一つです。

なぜ実務で重要なのか

製薬・バイオテック企業への投資を行うアナリスト・PE/VC投資家にとっては、開発中の新薬がどのフェーズにあるかが、企業の将来収益の確度とタイミングを左右する最重要情報です。M&Aアドバイザーにとっては、製薬企業の買収・ライセンス契約交渉において、パイプラインのフェーズと成功確率の評価が価格交渉の中心的な論点になります。

仕組み:各フェーズで確認する内容

治験フェーズと確認事項 Phase I 数十人の健常者 安全性・用量の確認 Phase II 数百人の患者 有効性・最適用量の検討 Phase III 数千人規模の患者 有効性・安全性の最終確認 フェーズが進むほど、対象人数は増え、承認までの成功確率は上昇する
図:治験フェーズごとの対象人数と確認事項(承認前の主要な3段階)

全フェーズを通過した後、規制当局(日本ではPMDAの審査を経て厚生労働大臣)による承認審査を経て、初めて医薬品として販売できます。基礎研究・非臨床試験を含めると、新薬候補が市場に出るまでの期間は10年を超えることも珍しくありません。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。ある新薬候補が承認された場合の想定ピーク売上高が1,000億円だったとします。開発フェーズごとの一般的な成功確率(次のフェーズ・承認に到達する確率の目安、架空の仮定値)を用いて期待値を試算します。

現在の段階承認までの想定成功確率(仮定)期待価値(想定ピーク売上×確率)
Phase I開始時点10%100億円
Phase II開始時点25%250億円
Phase III開始時点60%600億円

(本設例の確率は理解のための仮定値であり、実際の臨床開発の成功確率は疾患領域・薬剤の種類によって大きく異なります。)この設例から分かるのは、同じ「有望な新薬候補」でも、どのフェーズにいるかによって期待価値が数倍単位で変わるという点です。フェーズが1段階進むだけで不確実性が大きく減少するため、パイプライン価値評価では「今どのフェーズにいるか」の把握が出発点になります。

投資判断への影響

製薬・バイオテック企業への投資評価では、パイプライン全体を各薬剤候補のフェーズ・想定ピーク売上・成功確率に基づいて積み上げる「リスク調整後正味現在価値(rNPV)」という考え方が広く使われます。単一のフェーズにパイプラインが集中している企業は、その治験の結果次第で企業価値が大きく変動するリスクを抱えており、複数フェーズ・複数疾患領域にパイプラインが分散している企業と比べてリスクプロファイルが異なります。

財務モデル・Excelでの使い方

製薬企業のパイプライン評価モデルでは、薬剤候補ごとに行を分け、フェーズ・成功確率・想定ピーク売上・上市予定時期を管理します。

  • 薬剤別行:現在のフェーズ、次フェーズ移行の想定時期を管理
  • 成功確率行:疾患領域別の一般的な成功確率(外部データベース等を参照)を仮定
  • 期待価値行:=想定ピーク売上×累積成功確率で算出し、割引率を適用して現在価値化

創薬バイオのバリュエーション入門では、rNPVの詳細な計算手順を扱っています。

この用語をExcelで「組める」状態にする

フェーズ別の成功確率とピーク売上からパイプラインの期待価値を積み上げられるようになる。

創薬バイオのバリュエーション入門で実装手順を見る →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「Phase IIIまで進んでいれば承認はほぼ確実」→ 正しくは、Phase IIIでも大規模な患者集団で予期しない副作用や有効性不足が判明し、開発中止に至る例は少なくありません。フェーズが進んでも不確実性がゼロになるわけではありません。

誤解2:「進み方は疾患によらず同じ」→ 正しくは、希少疾患や緊急性の高い疾患では、優先審査制度により通常より早く承認に至ることがあります。標準的な流れには疾患・薬剤の性質による例外が存在します。

日本実務での扱い

(2026年7月時点)日本では独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が治験の審査・相談、承認審査を担い、最終的な承認は厚生労働大臣が行います。日本の治験は、国際共同治験(グローバル製薬企業が複数国で同時に実施する治験に日本の医療機関も参加する形式)への参加が増加しており、これにより日本での薬事承認が海外承認と比べて大きく遅れる「ドラッグ・ラグ」の是正が進められています。医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく承認制度のもとで、条件付き早期承認制度など、開発を迅速化する制度も整備されています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:治験フェーズが製薬企業のパイプライン価値評価にどう関わるか説明してください。
「Phase I・II・IIIと段階が進むにつれ、対象患者数が増え、安全性・有効性の確認がより厳格になります。フェーズが進むほど承認に至る成功確率は上昇するため、同じ新薬候補でも現在の開発段階によって期待される企業価値への寄与は大きく異なります。パイプライン評価では、各候補のフェーズ・成功確率・想定ピーク売上を組み合わせたrNPV(リスク調整後正味現在価値)という考え方が一般的です。」

深掘りでは「なぜ製薬企業はパイプラインを分散させるのか」(単一薬剤への依存リスクの分散)が問われることがあります。

よくある質問(FAQ)

Q. Phase 0やPhase IVという段階もありますか?
A. はい。Phase 0は極めて少人数・低用量でヒトへの初期反応を確認する探索的な段階、Phase IVは承認後の市販後調査(長期的な安全性・有効性の追跡)を指します。標準的なPhase I〜IIIに加えて、これらの段階が設定されることがあります。

Q. 治験フェーズの情報はどこで確認できますか?
A. 各製薬企業のIR資料・決算説明資料でパイプラインの進捗が開示されるほか、日本の臨床試験については独立行政法人医薬基盤・健康・栄養研究所が運営するデータベース(jRCT等)で公開情報を確認できます。

出典・参考(2026-07-25確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

共有: