この記事で分かること
- CIM(インフォメーション・メモランダム)の定義と、ティーザーとの違い
- セルサイドプロセスの中でCIMがいつ・誰に配布されるか(流れを図解)
- CIMの標準的な記載内容と、買い手として読むときの着眼点
- 日本実務での留意点(NDA・インサイダー規制・呼称の違い)
30秒で分かる定義
CIM(Confidential Information Memorandum、読み方:シーアイエム)とは、M&Aの売却プロセスで、売り手側が買い手候補に対象会社の事業・財務・成長戦略を詳細に説明するために作成する開示資料です。日本語では「インフォメーション・メモランダム」「企業概要書」、略して「IM」「インフォメモ」とも呼ばれます。秘密保持契約(NDA)を締結した買い手候補にのみ配布され、社名を伏せた1〜2枚の打診資料である「ティーザー」とは開示の深さが異なります。作成するのは売り手のフィナンシャル・アドバイザー(FA)です。
なぜ実務で重要なのか
- IB(セルサイドFA):CIM作成はセルサイド・アナリストの中核業務です。事業の強みを「買い手が価値を払える形」に翻訳する資料設計力が問われます。
- PE・事業会社(買い手):CIMは一次入札(意向表明)の判断材料のほぼすべてです。限られた情報から投資仮説を立て、EVレンジを出す起点になります。
- FAS:財務DDの前提となる「売り手側の説明ストーリー」を把握する資料として読み込みます。
オークション(入札)案件では、CIMの完成度がプロセス全体の競争環境を左右します。全体の設計はセルサイドM&Aプロセスの解説と入札プロセスの戦術で扱っています。
仕組み:セルサイドプロセスの中での位置づけ
CIMは「NDA締結の対価として開示される最初の詳細資料」であり、買い手はこれをもとに一次意向表明(LOI・意向表明書)で価格レンジを提示します。以降のDDは、CIMに書かれたストーリーを検証する作業と言い換えられます。
整数設例で確認する
設例(架空数値・単位:百万円)。CIMの財務セクションには、報告EBITDAを実力値に引き直す「EBITDAブリッジ」が示されるのが通例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 報告EBITDA | 900 |
| 一過性の訴訟費用(足し戻し) | +70 |
| 退任予定役員の報酬(足し戻し) | +30 |
| 調整後EBITDA(CIM記載値) | 1,000 |
買い手が一次意向表明でEV/EBITDA 7倍を採用すれば、提示EVは1,000×7倍=7,000です。ただしCIMの調整は売り手側の主張であり、買い手はDDで「+70と+30は本当に一過性か」を検証してから最終価格に落とし込みます。調整の考え方は調整後EBITDAの解説を参照してください。
財務モデル・Excelでの使い方
買い手のアナリストは、CIM受領後1〜2週間で一次入札用の簡易モデルを組むのが典型です。
- 入力:CIMの過去3〜5期のPL・BS要約と事業計画をそのまま入力シートに転記し、「CIM計画」ケースとして保存します。
- ケース設計:CIM計画は売り手の強気シナリオであることを前提に、成長率・マージンを引き下げた「ベースケース」を別途作り、両ケースでEVレンジを算定します。
- アウトプット:一次意向表明に記載する価格レンジ(例:EV 6,500〜7,500)と、その前提(倍率・調整後EBITDA)を1枚にまとめます。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
- 誤解1「CIMは中立的な会社説明資料」→ CIMは売り手のマーケティング資料です。事業計画・EBITDA調整は売り手に有利な前提で作られている前提で読み、数字の裏付けはDDで取ります。
- 誤解2「ティーザーとCIMは同じもの」→ ティーザーはNDA前に配る匿名の打診資料(1〜2枚)、CIMはNDA後に配る詳細資料(数十ページ)で、開示情報の深さがまったく異なります。
- 買い手の着眼点:①調整後EBITDAの調整項目の妥当性、②事業計画の前提(市場成長率と自社シェアのどちらで伸ばしているか)、③記載が薄い論点(顧客集中・キーパーソン依存など、あえて触れていない箇所)の3点をまず確認します。
日本実務での扱い(開示・法規制との関係)
(2026年7月時点)日本では「IM」「企業概要書」の呼称が一般的で、中小M&Aでは仲介会社が作成する簡易な企業概要書がCIMに相当します。上場会社が売却対象の場合、CIMに含まれる未公表の業績・計画情報は金融商品取引法第166条の重要事実に該当し得るため、受領した買い手候補はインサイダー取引規制の対象となり、株式の売買が制限されます。配布はNDA(秘密保持契約)の締結が前提で、目的外使用の禁止・複製制限・返還義務が定められます。また、経済産業省・中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は、企業概要書の記載内容と情報管理を仲介者の行動指針として整理しており、非上場の中小案件でも情報管理の規律は同様に働きます。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:CIMを受け取ったら、最初の1時間で何を見ますか?(PE面接)
「3点です。第一にエグゼクティブサマリーと財務ハイライトで案件の規模感とEBITDA水準を掴み、自社ファンドの投資基準に合うかを判定します。第二に調整後EBITDAのブリッジで、調整項目の中身と大きさを確認します。第三に事業計画の成長ドライバーが市場成長かシェア拡大かを見て、投資仮説の骨子と検証すべき論点を書き出します。」
深掘りでは「CIMの数字をそのままモデルに使ってよいか」(ケース分けして使う)、「記載のない情報をどう入手するか」(Q&Aプロセス・マネジメントプレゼン)まで問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. CIMは誰が書くのですか?
A. 売り手FA(投資銀行・M&Aアドバイザー)が、対象会社の経営陣への取材と資料収集をもとに起草します。数字の正確性の責任は最終的に売り手側にあり、FAはドラフトと検証を担います。
Q. CIMに法的な保証はありますか?
A. 通常、CIMには「記載情報の正確性を保証しない」旨のディスクレーマーが付されます。買い手が依拠できるのは、最終契約書(SPA)に規定される表明保証であり、CIMの記載自体ではありません。
出典・参考(2026-07-20確認)
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」 https://www.chusho.meti.go.jp/
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」(第166条) https://elaws.e-gov.go.jp/
- 経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する指針」(2019年6月) https://www.meti.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。