この記事で分かること

  • 資産譲渡(事業譲渡)と株式譲渡で課税主体・税率がどう変わるか
  • 譲渡益に対する税額を整数設例で比較し、消費税の扱いの違いも確認
  • 資産譲渡に潜む「二重課税」の論点
  • M&Aスキーム選択における税務面の基礎(2026年8月時点)

30秒で分かる定義

資産譲渡と株式譲渡の税務上の違いとは、事業譲渡(アセットディール)と株式譲渡(シェアディール)で、売り手・買い手それぞれの課税関係が大きく異なるM&Aスキーム選択の基本論点です。資産譲渡では対象会社(法人)が資産の譲渡主体となり、譲渡益に対して法人税等が課税されます。株式譲渡では株主(個人または法人)が譲渡主体となり、株主自身に譲渡益課税が生じます。どちらのスキームを選ぶかによって、税負担の大きさだけでなく、税金を負担する主体そのものが変わる点が実務上の最重要ポイントです。

なぜ実務で重要なのか

M&A仲介・FAにとっては、M&Aスキームの提案時に税務インパクトを併せて説明できるかが提案の質を左右します。税理士・FAS(税務DD担当)にとっては、スキーム選択が最終的な手取り額に直結するため、売り手オーナーへの助言の中核をなします。PE・買い手企業にとっては、資産譲渡で取得した資産の税務上の取得価額が時価に洗い替えられる(ステップアップ)ことによる将来の減価償却メリットが、買収価格の妥当性評価に影響します。事業承継を控えたオーナー経営者にとっては、手取り額の最大化に直結する論点です。

仕組み:課税主体・税率・消費税の違い

項目資産譲渡(事業譲渡)株式譲渡
課税主体譲渡法人(会社)譲渡株主(個人・法人)
適用税率法人実効税率個人株主:申告分離課税20.315%/法人株主:法人実効税率
消費税課税資産の譲渡対価に消費税が別途課税される有価証券の譲渡として非課税
買い手の税務メリット取得資産の税務上の帳簿価額が時価にステップアップし、のれん(資産調整勘定)の税務上の償却が可能対象会社の資産の税務上の帳簿価額は変わらない(簿価継続)

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位は百万円)。譲渡対価1,000のディールを、資産譲渡・株式譲渡それぞれで比較します。法人実効税率は30%と仮定します。

ケース1:資産譲渡。会社が保有する対象事業の資産の税務上の帳簿価額合計を600とすると、譲渡益 = 1,000 − 600 = 400。会社に課される税額 = 400 × 30% = 120。会社に残る税引後の手取り = 1,000 − 120 = 880(検算:1,000−600=400、400×0.30=120、1,000−120=880)。

ケース2:株式譲渡。個人株主の株式取得費(過去の出資額等)を200とすると、譲渡益 = 1,000 − 200 = 800。申告分離課税20.315%を適用した税額 = 800 × 20.315% = 162.5。株主の手取り = 1,000 − 162.5 = 837.5(検算:1,000−200=800、800×0.20315=162.52、1,000−162.52≒837.5)。

この2つの数字だけを比較すると株式譲渡の税額(162.5)の方が資産譲渡の税額(120)より大きく見えますが、注意が必要です。資産譲渡の880は会社の中に残った資金であり、オーナー個人の手元に届いていません。この880を配当や会社の清算によって個人が最終的に受け取るには、さらに追加の課税(配当課税やみなし配当課税等)が生じ得るため、個人が最終的に手にする金額で比較すると、資産譲渡の方が実効税負担は重くなるのが一般的です。これが「資産譲渡の二重課税」と呼ばれる論点です。

投資判断への影響

買い手にとっては、資産譲渡による税務上のステップアップで将来の減価償却費・のれん償却費が増え、税負担が軽減される(キャッシュフローが増える)というメリットがあります。この将来キャッシュフロー増加分を織り込んで買収価格を提示するかどうかが、資産譲渡と株式譲渡のいずれを選ぶかという交渉における重要な論点になります。売り手が二重課税を避けたいために株式譲渡を希望し、買い手が税務メリットを求めて資産譲渡(またはその代替として税務上のステップアップを可能にする別のスキーム)を希望するという、利害の対立が生じやすい構図です。

財務モデル・Excelでの使い方

スキーム選択の意思決定モデルでは、次のような比較シートを組みます。

  • 手取り額比較表:資産譲渡・株式譲渡それぞれについて、譲渡益・適用税率・税額・(資産譲渡の場合は)会社からの分配時の追加課税までを行に並べ、最終的な個人の手取り額を比較する
  • 買い手側の税務メリット試算:ステップアップにより増加する減価償却費に実効税率を乗じた「税務メリットの現在価値」を算出し、買収価格の上乗せ余地を検討する

この用語をExcelで「組める」状態にする

資産譲渡・株式譲渡それぞれの手取り額比較表を組み、スキーム選択の交渉材料を作れるようになる。

M&Aモデル教材で実装手順を見る →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

  • 誤解1「税額が小さい方が有利」→ 正しくは、資産譲渡の会社段階の税額だけを見て判断するのは誤りで、その資金を個人が最終的に受け取る際の追加課税まで含めた手取り額で比較する必要があります。
  • 誤解2「株式譲渡なら消費税は関係ない」→ 正しくは、株式(有価証券)の譲渡自体は非課税ですが、事業譲渡では譲渡対象資産の性質によって消費税の課税・非課税・不課税が個別に判定されるため、事前の精査が必要です。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)個人株主が非上場株式を譲渡した場合の譲渡益は、申告分離課税により所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた税率20.315%が適用されます。事業譲渡(資産譲渡)の場合、消費税の課税対象となる資産の譲渡対価には消費税が課され、譲渡法人はこれを申告・納付する義務を負います。中小企業の事業承継では、資産譲渡・株式譲渡いずれのスキームでも活用可能な税制優遇として経営資源集約化税制が設けられており、スキーム選択の検討時にはこうした税制優遇の適用可否も確認します。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:資産譲渡と株式譲渡で、売り手オーナーの手取り額はどう変わりますか。
「資産譲渡では会社が譲渡主体となり法人税等が課税された後、その資金を個人が受け取るには配当や清算による分配が必要で、その際に追加の課税が生じ得ます。株式譲渡では株主個人が直接譲渡主体となり、申告分離課税20.315%が一度課されるだけで手続が完了します。したがって、オーナーが会社をたたんで完全に現金化することを目的とする場合、一般的には株式譲渡の方が手取り額で有利になりやすいといえます。」

深掘りでは「買い手が資産譲渡を好む税務上の理由(ステップアップ)」「事業の一部だけを譲渡したい場合になぜ株式譲渡が使えないか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 法人株主が株式を譲渡する場合も税率は20.315%ですか。
A. いいえ。20.315%の申告分離課税は個人株主に適用される税率です。法人株主が株式を譲渡した場合の譲渡益は、その法人の他の所得と合算されて法人税等の実効税率で課税されます。

Q. 事業の一部だけを譲渡したい場合、株式譲渡は使えますか。
A. 株式譲渡は会社全体(発行済株式)を対象とするスキームのため、事業の一部だけを切り出す場合には使えません。その場合は事業譲渡や会社分割といった、対象を限定できるスキームを検討します。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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