この記事で分かること

  • 社内振替価格の定義と、代表的な3つの設定方式(変動費基準・全部原価基準・市価基準)
  • 振替価格を変えても全社利益は変わらないことを確認する整数設例
  • 振替価格の設定が全社最適でない行動を誘発する仕組み
  • 管理会計上の振替価格と、税務上の移転価格税制の決定的な違い

30秒で分かる定義

社内振替価格(しゃないふりかえかかく、Internal Transfer Pricing)とは、同一企業内の事業部間や工場・販売部門間で製品・部品・役務をやり取りする際に付す社内取引の価格のことです。振替価格・内部取引価格とも呼ばれます。外部との取引と違い、社内取引では価格をいくらに設定しても全社の利益は1円も変わりません。変わるのは、その利益が供給側と受入側のどちらに計上されるかだけです。にもかかわらず設計が難しいのは、計上先が変わることで各部門の評価・報酬・行動が変わり、結果として全社の意思決定まで歪みうるからです。

なぜ実務で重要なのか

経営企画・FP&Aにとって、事業部制を敷いた瞬間に必ず向き合う論点です。振替価格が決まらなければ部門損益が確定せず、部門別採算管理そのものが動きません(部門別採算管理とは)。事業部門にとっては、自部門の利益が直接動くため最も敏感な交渉事項です。製造業・素材業では、垂直統合された工程間の値付けが常に議論の対象になります。PE・FASでは、カーブアウト案件で切り出す事業の実力を見極める際、社内取引が市場価格と乖離していないかの検証が必須の作業になります。社内価格で安く仕入れていた事業が、独立後に市場価格で調達すれば採算は一変します。

仕組み(3つの設定方式)

方式設定水準利点問題点
変動費基準供給部門の変動費全社最適な数量判断を誘導できる供給部門が必ず固定費分の赤字になり、評価できない
全部原価基準変動費+固定費配賦供給部門の費用は回収される受入側から見れば固定費が変動費に見え、数量判断が歪む
市価基準外部市場の実勢価格両部門を独立企業のように評価できる比較可能な外部市場がなければ設定できない
交渉価格両部門の合意による当事者の納得を得やすい交渉力の差が価格を決め、交渉コストがかかる

理論的に最も整合するのは、供給部門に遊休能力がある場合は変動費(+機会費用がゼロ)、遊休能力がない場合は変動費+機会費用を振替価格とする考え方です。遊休能力がなければ、社内に供給する分だけ外部への販売を諦めることになるため、その逸失利益(機会費用)を上乗せするのが合理的です。ただしこの計算は動的に変わるため、実務では固定的なルール(多くは全部原価基準または市価基準)で運用し、重要な意思決定の場面でのみ機会費用を考慮する、という折衷が採られます。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。製造部門が中間品を作り、販売部門がそれを外部顧客に売る垂直統合型の事業を考えます。

  • 年間数量:100,000個 / 製造部門の変動費:600円/個 / 製造部門の固定費:30,000千円(1個あたり300円)
  • 販売部門の追加変動費:100円/個 / 外部への最終販売価格:1,200円/個

まず全社の利益を確認します。1個あたりの限界利益 = 1,200 − 600 − 100 = 500円。総額では 500円 × 100,000個 = 50,000千円。ここから製造部門の固定費30,000千円を引いて、全社利益 = 20,000千円です。

振替価格製造部門の利益販売部門の利益全社利益
①変動費基準 600円△30,000千円+50,000千円20,000千円
②全部原価基準 900円0+20,000千円20,000千円
③市価基準 1,000円+10,000千円+10,000千円20,000千円

計算の検算をします。
①製造部門 =(600 − 600)× 100,000 − 30,000千円 = △30,000千円。販売部門 =(1,200 − 600 − 100)× 100,000 = +50,000千円。合計 = 20,000千円。
②製造部門 =(900 − 600)× 100,000 − 30,000千円 = 30,000千円 − 30,000千円 = 0。販売部門 =(1,200 − 900 − 100)× 100,000 = +20,000千円。合計 = 20,000千円。 ③製造部門 =(1,000 − 600)× 100,000 − 30,000千円 = 40,000千円 − 30,000千円 = +10,000千円。販売部門 =(1,200 − 1,000 − 100)× 100,000 = +10,000千円。合計 = 20,000千円。

3つのどの方式でも全社利益は20,000千円で不変です。変わるのは部門間の利益の配分だけで、①では販売部門が全利益を取り、製造部門は固定費分の赤字を背負います。③では両部門が10,000千円ずつを分け合います。振替価格の議論は、実態としては社内での利益の取り合いであるという構図がここから見て取れます。

行動が歪む例

仮に、同じ中間品を外部から1,100円で調達できるとします。振替価格を市価基準の1,000円としていれば、販売部門は社内調達(1,000円)を選び、全社にとっても正しい判断になります。しかし、振替価格を交渉の結果1,150円に引き上げていた場合、販売部門は外部調達(1,100円)を選びます。このとき全社では、社内で600円の変動費で作れるものに1,100円を支払うことになり、1個あたり500円、総額で50,000千円の価値が失われます。振替価格の設定ミスが、そのまま全社の損失に直結する典型例です。

部門評価・投資判断への影響

振替価格が部門評価に及ぼす影響は、上の設例のとおり決定的です。①の変動費基準では、製造部門はどれだけ効率的に生産しても構造的に赤字となり、業績評価が成立しません。この場合、製造部門はコストセンターとして原価差異で評価するのが整合的です(責任会計とは)。逆に、製造部門をプロフィットセンターとして評価したいのであれば、市価基準か、原価にマークアップを乗せた方式を採る必要があります。評価指標と振替価格の方式はセットで設計するのが原則です。

投資判断への影響も見逃せません。製造部門が振替価格の低さゆえに恒常的に赤字なら、その部門への設備投資は稟議を通りにくくなります。全社にとって必要な生産能力の増強が、社内の会計ルールの副作用で滞る事態が起こり得ます。振替価格の方式を変えられない場合は、投資判断だけは全社ベースの限界利益で評価するという例外ルールを明示しておく必要があります。

また、原材料価格が変動する事業では、振替価格の改定タイミングが部門損益を大きく動かします。年1回の改定では期中の市況変動を吸収できず、その差が部門の巧拙と誤解されます。改定頻度と連動指標(原材料指数など)をあらかじめルール化しておくことが、無用な議論を防ぎます(予実管理と差異分析の型)。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 内部取引を必ず別行で持つ:各部門のPLで「外部売上」と「内部売上」、「外部仕入」と「内部仕入」を分けて表示します。全社集計の段階で内部売上と内部仕入を相殺する消去行を置き、相殺後の残高がゼロであることを検証します。
  • 振替単価を独立の入力セルに:単価は1か所の入力セルで管理し、供給側・受入側の双方がそれを参照する構造にします。両側で別々に入力すると必ず不一致が生じます。
  • 方式の切り替えスイッチ:変動費基準・全部原価基準・市価基準を選択できるセルを置き、上の設例のように部門損益がどう変わるかを比較できるようにします。制度変更の影響を事前に社内へ示す資料として有効です。
  • 全社利益の不変性チェック:振替価格をどう変えても全社利益が変わらないことを確認する検算行を置きます。この行が動く場合、内部取引の消去に漏れがあります。
  • 数量の整合:供給部門の内部出荷数量と受入部門の内部仕入数量が一致することを、金額とは別に数量ベースでも検証します。

この用語をExcelで「組める」状態にする

内部取引を消去できる部門別損益モデルを設計し、振替価格の方式変更が各部門の評価をどう動かすか即座に比較できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「振替価格を上げれば会社の利益が増える」→ 正しくは、全社利益は変わりません。変わるのは部門間の配分だけです。この点が経営会議で共有されていない組織では、振替価格の交渉に業績改善と同じだけの労力が費やされます。

誤解2:「市価基準が常に正しい」→ 正しくは、比較可能な外部市場がなければ成立しません。自社専用に設計した部品や、社内向けにしか提供していない役務には市場価格が存在しません。無理に類似品の価格を持ち込むと、根拠の乏しい数字で部門損益が決まることになります。

確認ポイント:受入側に外部調達の自由を与えるか。外部調達を認めれば市場規律が働きますが、上の設例で見たように、振替価格が変動費を大きく上回る水準に設定されていると全社にとって不利な調達が起きます。外部調達を認める場合は、供給部門に価格で対抗する権限も与えるのが整合的です。

確認ポイント:カーブアウト時の再検証。社内価格が市場実勢より低い水準にあった事業を切り出す場合、独立後の調達コストは上昇します。買い手はこの差額をスタンドアロンコストとして価格に織り込むため、売り手側は事前に影響額を把握しておく必要があります。

日本実務での扱い

最も重要な区別は、管理会計上の社内振替価格と、税務上の移転価格税制はまったく別の概念であるという点です(以下2026年7月時点)。

社内振替価格は、同一法人内の事業部間の取引に付す価格であり、法人格が1つである以上、税務上の課税所得には影響しません。純粋に内部管理のための数値です。これに対し移転価格税制は、租税特別措置法に基づき、法人と国外関連者との間の取引価格が独立企業間価格(アームズ・レングス・プライス)と異なることにより所得が国外に移転している場合に、独立企業間価格で取引が行われたものとみなして課税所得を計算する制度です。対象は別法人間かつ国外関連者との取引であり、社内の事業部間取引はそもそも対象外です。

国内のグループ会社間(別法人)の取引についても注意が必要です。国内取引は移転価格税制の直接の対象ではありませんが、著しく低い価格や高い価格で取引を行った場合、法人税法上の寄附金や受贈益として認定されるリスクがあります。「社内のルールだから自由に決めてよい」のは同一法人内の事業部間に限られると理解しておく必要があります。

実務上の帰結として、グループを法人単位で再編する際には、それまで社内振替価格で処理していた取引が法人間取引となり、税務上の価格妥当性の説明責任が新たに発生します。カンパニー制から分社化へ移行する場面などでは、管理会計のルールをそのまま法人間の取引価格に流用できないため、税務専門家を交えた設計が必要になります。開示面では、内部取引の消去後の数値がセグメント情報として開示されることになります(セグメント情報の読み方)。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:製造部門と販売部門の間の振替価格を、変動費基準から市価基準に変更しました。全社の利益はどうなりますか。
「全社の利益は変わりません。振替価格は社内での利益の付け替えにすぎず、外部との取引条件が変わらない限り全社の収益と費用は同一だからです。変わるのは部門間の配分で、市価基準にすれば製造部門に利益が移り、販売部門の利益は減ります。ただし、部門の行動が変わることで全社利益が間接的に動く可能性はあります。たとえば受入部門に外部調達の自由がある場合、振替価格が高すぎると社内で安く作れるものを外部から高く買う判断が起き、全社では損失になります。」(30秒回答例)

深掘りでは「理論的に正しい振替価格は何か」(遊休能力があれば変動費、なければ変動費+機会費用)、「社内振替価格と移転価格税制の違いは何か」(前者は同一法人内の管理会計、後者は国外関連者との法人間取引に対する税制であり、対象も根拠法令も異なる)が問われます。後者を正確に区別できるかは、実務経験の有無を測る問いとしてよく使われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 振替価格は年に何回見直すべきですか?
A. 原材料価格の変動が大きい事業では、年1回では期中の市況変動を吸収できません。連動する指標(原材料指数、為替レート)を定めて四半期ごとに機械的に改定する方式にすると、都度の交渉が不要になります。逆に、投入コストが安定している事業では年1回で十分です。改定頻度そのものより、ルールを事前に定めて恣意性を排除することが重要です。

Q. 部門間で振替価格の合意ができない場合はどうしますか?
A. 交渉価格方式を採る場合は、必ず裁定者(多くは経営企画部門または担当役員)を制度上明示しておきます。裁定の基準も事前に定めておくべきで、実務では「外部市場価格があればそれを優先し、なければ全部原価に一定率のマークアップを乗せる」といった順序を規定するのが一般的です。裁定の仕組みがないまま交渉に委ねると、交渉力の強い部門に有利な価格が定着します。

出典・参考(2026-07-21確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。