この記事で分かること

  • ROIC経営=ROICを事業部・個人の目標にまで分解して浸透させ、資本コストを上回る経営を徹底するスタイルであること
  • 全社ROIC目標を事業部別の投下資本・NOPAT目標に配分する考え方
  • 整数設例で確認する、事業部ごとのROICギャップをどう是正目標に落とし込むか
  • ROIC経営を導入する企業が増えている背景

30秒で分かる定義

ROIC経営(ROIC-Driven Management)とは、ROIC(投下資本利益率)を全社レベルの指標にとどめず、事業部・部門、場合によっては個人の業績目標にまで分解して浸透させ、資本コストを上回るリターンを事業運営全体で徹底する経営スタイルです。資本効率経営とも呼ばれます。売上高や営業利益だけを追う経営では、投下した資本の効率まで意識が及びにくいため、ROICを共通言語として現場の意思決定にまで組み込むことで、資本を使うすべての判断において「資本コストを上回るか」を問う文化を作ります。

なぜ実務で重要なのか

経営企画・CFOにとって、ROIC経営は資本配分フレームワークの判断基準を、全社から事業部・現場の意思決定にまで一貫させる仕組みです。事業部長にとっては、売上拡大だけでなく投じた資本の効率まで問われるようになり、安易な規模拡大を抑制する規律付けになります。投資家にとっては、ROIC経営を掲げる企業は資本効率への意識が高く、無駄な投資が抑制されやすいという評価材料になります。

仕組み(全社目標の事業部への分解)

ROIC経営の実行手順は、①全社のROIC目標(資本コストに一定のプレミアムを乗せた水準)を設定する ②事業部ごとの投下資本を算定する ③各事業部が全社目標と同じROICを達成するために必要なNOPAT(税引後営業利益)を逆算する ④さらに各事業部内で、ROICを構成する売上高営業利益率・投下資本回転率までKPIツリー的に分解し、現場の行動目標に落とし込む、という流れです。

整数設例で確認する

設例(架空数値、単位:百万円)。全社の投下資本10,000、WACC7%に対し、全社ROIC目標を10%(スプレッド+3pt)に設定したとします。

区分投下資本ROIC目標必要NOPAT現状NOPATギャップ
全社10,00010%1,000800-200
事業部16,00010%6006000
事業部24,00010%400200-200

全社の投下資本10,000に目標ROIC10%を乗じると、必要なNOPATは1,000(10,000×10%)です。事業部1(投下資本6,000)は目標どおりNOPAT600(現在のROIC10%)を達成していますが、事業部2(投下資本4,000)は目標NOPAT400に対し現状200しか稼げておらず、ROICは5%(200÷4,000)にとどまり、WACC7%すら下回っています。事業部2の200のギャップは、営業利益率の改善(値上げ・コスト削減)か、投下資本の圧縮(遊休資産の売却・運転資本の削減)のどちらか、あるいは両方で埋める必要があり、この分解が現場のKPI目標に落とし込まれます。

投資判断への影響

ROIC経営を徹底する会社では、新規投資の稟議において、その投資が事業部のROICを引き上げる方向に働くか、それとも希薄化させる方向に働くかが重要な審査項目になります。WACCを下回るROICの事業部・事業への追加投資は原則として抑制され、事業ポートフォリオマネジメントにおける撤退・再編の検討対象になりやすくなります。

財務モデル・Excelでの使い方

全社ROIC目標を事業部別に配分するツリー構造のシートを作ります。

  • 事業部別の投下資本と目標ROICから=投下資本×目標ROICで必要NOPATを自動計算する
  • 現状NOPATとの差分(ギャップ)を降順に並べ、優先的にテコ入れすべき事業部を可視化する
  • 各事業部のNOPATをさらに売上高・営業利益率に、投下資本を固定資産・運転資本に分解し、どちらの改善がギャップ解消に効果的かを試算する

この用語をExcelで「組める」状態にする

全社ROIC目標を事業部別の投下資本・NOPAT目標に自動配分し、ギャップの大きい事業部を可視化できるようになる。

コーポレートファイナンス教材で実装する →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「全事業部に同じROIC目標を課せばよい」→ 事業のリスク特性によって適切なWACCは異なるため、リスクの高い新規事業と安定した既存事業に同じROIC目標を課すと、新規事業の成長投資を過度に抑制してしまう恐れがあります。

誤解2:「ROICを上げるには投下資本を減らせばよい」→ 必要な設備投資まで削減すると、将来の競争力を損ないます。ROIC経営の目的は資本効率の最適化であり、単純な資本圧縮ではありません。

確認ポイント:現場のKPI目標がROICの分解と整合しているか(現場が理解・行動できる粒度まで落とし込まれているか)を確認します。

日本実務での扱い(2026年7月時点)

東証が2023年3月に要請した「資本コストや株価を意識した経営」以降、ROIC経営を中期経営計画の中核に据える日本企業が増えています。全社ROIC目標を事業部別・製品別にまで分解し浸透させる取り組みは、稟議の投資評価基準や事業部長の業績評価指標にも組み込まれています。投下資本という分母を意識した経営への転換は、評価制度の見直しを伴う組織的な変革でもあります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:全社のROIC目標を、事業部の現場KPIにまでどう分解しますか?
「まず全社の投下資本とROIC目標から必要なNOPATを算出し、これを事業部別の投下資本に応じて配分します。各事業部で目標と現状のギャップを把握し、そのギャップを営業利益率の改善(売上・コスト面の施策)と投下資本の圧縮(資産効率の改善)のどちらで埋めるかを、さらに現場のKPIに分解します。事業のリスク特性に応じてWACC・目標ROICを調整することも重要です。」

深掘りでは「事業部ごとにWACCを変える必要性」「資本圧縮と成長投資のバランス」が定番です。

よくある質問(FAQ)

Q. ROIC経営とROIC自体の定義はどう違いますか?
A. ROICは投下資本利益率という個別の財務指標そのものを指すのに対し、ROIC経営はその指標を全社から現場のKPIまで浸透させ、経営全体の意思決定基準として運用する経営スタイルを指します。

Q. ROIC経営を導入するとどのような組織的な変化が起きますか?
A. 投資稟議の審査基準にROICやハードルレートが組み込まれ、事業部長の評価指標に資本効率が加わるなど、意思決定と評価の仕組み全体がROICを軸に再設計されることが一般的です。

出典・参考(2026-07-25確認)

  • 日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」(2023年3月要請) https://www.jpx.co.jp/
  • 経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」 https://www.meti.go.jp/

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。