この記事で分かること
- パックマン・ディフェンスの定義と、日本の相互保有株式の議決権制限(会社法第308条第1項・施行規則第67条)
- 対象会社が買収者の議決権の4分の1以上を取得した場合の効果
- 必要資金を整数設例で試算し、実行可能性を確認
- 公開買付け規制・独占禁止法の届出・行動指針との関係
30秒で分かる定義
パックマン・ディフェンス(Pac-Man Defense)とは、敵対的買収を仕掛けられた対象会社が、逆に買収者の株式に対して公開買付けなどを行い、買収者を買収しようとする防衛策です。「逆買収」とも呼ばれます。名称は、追う側と追われる側が入れ替わるゲームのキャラクターに由来するとされます。
防衛策の一覧は敵対的買収と買収防衛策で扱っています。本ページは、日本の会社法の相互保有株式の議決権制限との関係と、実際に使えるのかという実行可能性に絞って解説します。
なぜ実務で重要なのか
防衛策として知られる一方、実行には大きな資金と時間が要ります。IBのディフェンス・アドバイザーは、選択肢として検討した上で、現実的な資金調達額と手続の順序を示します。経営企画・法務は、取締役会が採用した場合の善管注意義務や、株主への説明を整理します。PE・事業会社の買い手は、買収提案に対して逆に自社が標的になり得るかを想定し、対抗的な公開買付けとの違いを理解しておく必要があります。
計算式(ま たは仕組み)
日本の会社法で、この防衛策の効果を左右するのが相互保有株式の議決権制限です。株式会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて、株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主は、株主総会で議決権を有しません(会社法第308条第1項)[1]。法務省令(会社法施行規則第67条第1項)は、株式会社(子会社を含む)が、その株式会社の株主である会社等の議決権の総数の4分の1以上を有する場合の当該株主を対象とします[2]。
| 当事者 | 保有関係 | 議決権が制限される株主 |
|---|---|---|
| A(対象会社)が B の議決権の25%以上を取得 | A → B 25%以上 | B(A の株主として。A の総会で B の持分は議決権なし) |
| B(買収者)も A の議決権の25%以上を保有 | B → A 25%以上 | A(B の株主として。B の総会で A の持分は議決権なし) |
| どちらも25%未満 | — | 本規定による制限なし |
つまり、対象会社Aが買収者Bの議決権の4分の1以上を取得すると、Bは自らが保有するAの株式の議決権を行使できなくなります(一定の除外規定あり)。これがパックマン・ディフェンスの日本法上の主な効果です。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。買収者Bの時価総額を60,000百万円、対象会社Aの時価総額を20,000百万円とします。BはAの議決権総数1,000,000個のうち300,000個(30%)を保有しています。Bは普通株式のみを発行し、自己株式や議決権制限株式はなく、株式数の割合と相互保有対象議決権の割合が一致するものとします。AがBの議決権の25%を、市場価格に30%のプレミアムを加えた同一価格の公開買付けで取得するとします。
途中式:取得額(プレミアムなし) = 60,000 × 25% = 15,000百万円。プレミアム込み = 15,000 × 1.3 = 19,500百万円。Aの時価総額に対する比率 = 19,500 ÷ 20,000 = 97.5%です。
議決権への効果:AがBの議決権の25%を取得すると、BはAの総会で議決権を行使できません(Bが保有するAの議決権300,000個が失われ、行使可能な議決権は 1,000,000 − 300,000 = 700,000個)。一方、BもAの議決権の30%(25%以上)を持つため、AがBの総会で持つ議決権も制限されます。
この設例は、効果は大きい一方で、必要資金が自社の時価総額に近く、借入や増資に頼らざるを得ない構造を示しています。実際に実行できる会社は限られます。
案件プロセス上の位置付け
実行には、次の手続の整理が必要です。
- 公開買付け規制:有価証券報告書の提出義務のある発行者などの株券等を買い付ける場合、買付け後の株券等所有割合が30%を超えるときなどは公開買付けによらなければなりません(金融商品取引法第27条の2第1項)[3]。25%の取得でも、市場外で一定の割合を超える買付けなど、別の類型に当たる場合があります。
- 独占禁止法の届出:取得後の議決権保有割合が20%または50%を超える株式取得は、売上高の基準を満たす場合に事前届出の対象です(届出受理から30日の待機期間)[4]。
- 取締役会の判断:経済産業省の「企業買収における行動指針」は、対抗措置を含め、買収への対応が株主共同の利益に資する形で行われるべきことを示しています[5]。
実務での調べ方・確認手順
- 相互保有の現況:BがAの議決権をどれだけ持つか、AとBがそれぞれ相手の議決権を何%持つかを、株主名簿・大量保有報告書で確認します。
- 議決権の基準日:議決権数の判定は総会の日または特定基準日の議決権数で行われるため、基準日の前後で関係が変わらないかを確認します(会社法施行規則第67条)。
- 必要資金の試算:買付予定数×(市場価格×(1+プレミアム))を、自社の時価総額・手元資金・借入余力と並べます。
- 手続の見落とし:公開買付けの開始、独占禁止法の届出、関連する開示を時系列で表にします。
この用語を実務で
買収防衛の選択肢を、必要資金・議決権への効果・手続の順序で比較し、取締役会に説明できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「逆買収すれば買収者は必ず議決権を失う」→ 正しくは、対象会社(その子会社の保有分を含む)が買収者の議決権の4分の1以上を有する場合です。対象会社とその子会社の保有を合算して4分の1未満であれば、相互保有による議決権制限は生じません。
誤解2:「議決権が制限されれば防衛は成功する」→ 正しくは、他の方法で買収者が支配権を得ることも想定されます。議決権の制限は総会の議案ごとの効果であり、買収者が他の株主から株式を買い増して持分を高める可能性は残ります。
誤解3:「小さな会社でも大きな買収者を逆買収できる」→ 正しくは、資金面の制約が大きいです。設例のように、買収者の4分の1を取得する資金が自社の時価総額に近くなる場合があります。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本では、会社法第308条第1項と会社法施行規則第67条による相互保有株式の議決権制限(4分の1以上)が、この防衛策の効果の法的な根拠になります[1][2]。実際の採用例が多い防衛策ではなく、資金面や手続面の制約から、検討の選択肢の一つとして位置づけられるのが一般的です。有事に導入する対抗措置の相当性は、取締役会の善管注意義務や、経済産業省の行動指針が示す考え方に照らして判断されます[5]。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:パックマン・ディフェンスは日本で有効ですか。
「会社法第308条第1項と施行規則第67条により、対象会社が買収者の議決権の4分の1以上を取得すると、買収者は自らが持つ対象会社株式の議決権を行使できなくなります。効果は大きいものの、買収者の株式の4分の1を取得するための資金が必要で、公開買付け規制や独占禁止法の届出も伴うため、実行できる会社は限られると考えます。」深掘りでは、必要資金の試算と、他の防衛策(ホワイト・スクワイア等)との比較が問われます。
よくある質問(F AQ)
Q. パックマン・ディフェンスは、買収者の株式をどれだけ取れば議決権を制限できますか?
A. 会社法施行規則第67条第1項の基準は、買収者の議決権の総数(相互保有対象議決権)の4分の1以上です。算定の基準日や除外される議決権の定めがあるため、個別に確認が必要です。
Q. 他の防衛策とどう違いますか?
A. ポイズンピルなどが新株予約権の発行で買収者の持分を薄める方法であるのに対し、パックマン・ディフェンスは買収者の株式を取得して攻守を逆転させる方法です。資金負担が大きい点が特徴です。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)第308条第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
- e-Gov法令検索「会社法施行規則」(平成十八年法務省令第十二号)第67条第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010012(2026年11月参照)
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」(昭和二十三年法律第二十五号)第27条の2第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)
- e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」第10条第2項・第8項(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000054)。議決権保有割合20%・50%の基準は公正取引委員会「令和2年度年次報告」第7章(https://www.jftc.go.jp/soshiki/nenpou/r2_files/7shou.pdf)(2026年11月参照)
- 経済産業省「「企業買収における行動指針」を策定しました」(2023年8月31日). https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003.html(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。