この記事で分かること

  • ノーフォールト・ディボース条項の定義とGP解任条項との違い
  • LP議決権の閾値の整数設例
  • 発動後の実務上の効果(投資期間終了・GP交代の二段階構成)
  • 日本のLPS実務での位置付け

30秒で分かる定義

ノーフォールト・ディボース条項(No-Fault Divorce Clause、読み方:のーふぉーると・でぃぼーすじょうこう)とは、GPに詐欺や重過失といった帰責事由(Cause)が無い場合であっても、一定多数(通常は議決権ベースで75%前後)のLPの議決により、投資期間の早期終了、またはGPの交代を実現できる、リミテッド・パートナーシップ契約(LPA)上のガバナンス条項です。「理由不要の投資期間終了条項」「LP多数決による関係解消」とも呼ばれます。名称は、離婚の際に相手方の有責性を問わない「no-fault divorce(協議離婚)」に由来します。

なぜ実務で重要なのか

LP(機関投資家)にとっては、GPのパフォーマンスが低迷している、またはキーパーソンの離脱等でファンド運営への信頼が損なわれた場合に、GPの明確な不正行為を立証できなくても関係を解消できる、実効性のあるガバナンス上のセーフティネットになります。GP側にとっては、この条項の存在自体が、LPからの信頼維持・良好なコミュニケーションを継続する強いインセンティブとして機能します。ファンド組成の実務担当(法務・IR)にとっては、GP解任条項(Cause条項)との役割分担を正確に理解し、PEファンドの構造を踏まえてLPAの交渉に反映させる必要があります。

仕組み:議決の閾値と二段階構成

賛成コミットメント額 ÷ 議決権を有するLPの総コミットメント額 ≧ 閾値(例:75%)で発動

多くのLPAでは、まず「投資期間の早期終了」がノーフォールトの第一段階として位置付けられ、これにより新規投資が停止し既存投資の管理・Exitのみが行われる体制に移行します。「GPそのものの解任」は、これとは別により高い閾値、または別の手続き(新GPの選任プロセスを含む)を要する第二段階として設計されることが一般的です。この二段階構成により、LPの不満の程度に応じた段階的な対応が可能になります。議決権の算定では、GP自身やその関係者が保有するLP持分を母数から除外するのが標準的な実務です。

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円)。ファンドの総コミットメント100,000(うちGP関係者分を除いた議決権対象は100,000とします)。ノーフォールト条項の発動閾値は「議決権対象の75%」と定められています。

  • 発動に必要な賛成コミットメント額 = 100,000 × 75% = 75,000
  • 実際に賛成したLPの合計コミットメント額 = 82,000

検算:82,000 ÷ 100,000 = 82%。82% > 75%(閾値)のため、この投票は成立し、ノーフォールト・ディボース条項が発動します。仮に賛成が70,000(70%)にとどまっていた場合は、70% < 75%で閾値未達となり、条項は発動しません。

契約条項への影響

ノーフォールト・ディボース条項が発動すると、多くのLPAでは投資期間の即時終了、管理報酬の算定基礎の切替え(管理報酬のステップダウンと同様の投資残高ベースへの移行、または追加的な減額)が連動して発生します。LPAC(LP諮問委員会)が事前の協議機関として関与するLPAもあり、正式な議決に至る前の段階的な意思疎通の場として機能します。GP解任まで至る場合は、既存投資先の運営体制の引き継ぎや、キーマン条項との関係整理も必要になります。

実務での調べ方・確認手順

  • LPAの該当条項(多くは「Removal of General Partner」「Termination of Investment Period」といった見出しの周辺)で、閾値・議決権の算定方法・発動後の効果を確認する
  • ファンド管理シートでは、LP別のコミットメント額と議決権対象か否か(GP関係者除外の有無)を一覧化し、仮に議決が行われた場合の到達可能性をシミュレーションできるようにしておく
  • LPAC(LP諮問委員会)の構成メンバーと、正式議決前の協議プロセスの有無をあわせて確認する

この用語を実務で「使える」状態にする

LP別のコミットメント額から議決権の閾値到達をシミュレーションし、ガバナンス条項の実効性を定量的に評価できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「ノーフォールト条項の発動にはGPの不正行為の立証が必要」→ 正しくは、文字通りGPの帰責事由(Cause)を立証する必要がなく、単純な多数決の議決で足りる点が最大の特徴です。これが立証を要するGP解任条項(Cause条項)との本質的な違いです。

誤解2:「発動されると即座にGPが解任される」→ 正しくは、多くのLPAでは投資期間の早期終了がまず選択肢となり、GPそのものの解任にはより高い閾値や別の手続きを要する二段階構成が一般的です。

確認ポイント:閾値の算定方法(GP関連LPの議決権除外の有無)、行使できる時期の制限(募集期間中は行使不可等の制約の有無)、行使後の管理報酬・キャリーへの影響。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本の投資事業有限責任組合(LPS)契約でも、組合員(LP)の多数決による重要事項の決定に関する規定は置かれますが、「ノーフォールト・ディボース条項」という名称・設計自体は米国のバイアウトファンドLPA実務に由来するもので、国内独立系ファンドでの採用は限定的というのが一般的な理解です(2026年8月時点)。海外の機関投資家をLPとして迎え、グローバルスタンダードに近いLPAを採用するファンドでは、この種のガバナンス条項が交渉のテーブルに上ることがあります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:ノーフォールト・ディボース条項とGP解任条項(Cause条項)の違いを説明してください。
「GP解任条項は、詐欺や重過失といったGPの帰責事由(Cause)を立証することで発動する条項です。一方、ノーフォールト・ディボース条項は、そうした帰責事由の立証を必要とせず、一定多数のLPの議決だけで投資期間の早期終了やGPの交代を実現できる点が異なります。LPにとっては、GPの明確な不正を証明できなくても関係を解消できる実効性のあるガバナンス手段です。」(30秒回答例)

深掘りでは「議決権の算定でGP関連LPを除外する理由」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. ノーフォールト条項はすべてのファンドのLPAに含まれますか?
A. いいえ。すべてのファンドで採用されるわけではなく、ファンドの規模・LP構成・GPとLPの交渉力によって含まれるかどうか、また閾値の水準も異なります。

Q. この条項が発動されるとGPのキャリーはどうなりますか?
A. 投資期間終了の場合、既存投資分のキャリーの権利は通常維持されますが、新規投資が行われないため将来のキャリー機会は失われます。GP解任まで至る場合は、既存の含み益に対するキャリーの扱いがLPAの規定に従って個別に精算されます。

出典・参考(2026-08確認)

  • e-Gov法令検索「投資事業有限責任組合契約に関する法律」https://elaws.e-gov.go.jp/
  • 金融庁(投資運用業・ファンド関連の監督資料)https://www.fsa.go.jp/

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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