この記事で分かること

  • 投資契約書・株主間契約書・種類株式発行要項という「3点セット」の役割分担
  • それぞれの当事者・有効期間・法的性質の違い
  • 保有比率が権利発動の閾値を超えるかどうかの整数設例
  • 日本のVC実務で3点セットが定着している理由

30秒で分かる定義

投資契約書(Investment Agreement)と株主間契約書(Shareholders Agreement)は、いずれもVCの資金調達で締結される契約ですが、投資契約書がその回の「調達」自体(払込条件・表明保証・クロージングの前提条件)を規律するのに対し、株主間契約書は調達後も継続する「株主同士のルール」(取締役指名権・拒否権事項・先買権など)を規律するという役割の違いがあります。日本のVC実務では、これに優先株式の内容を定める種類株式発行要項を加えた3点セットで契約するのが一般的です。

なぜ実務で重要なのか

VCは、投資実行時点の条件(表明保証違反があった場合の補償等)は投資契約書で、投資実行後も続くガバナンス上の権利(取締役会への関与、将来ラウンドでの希薄化防止)は株主間契約書で確保します。両者を1本の契約に混在させると、後続ラウンドで新規投資家を株主間契約に加える(当事者を追加する)際に、前回投資家固有の表明保証条項まで一緒に引き継がれてしまう不都合が生じます。創業者・経営陣にとっては、複数回の資金調達を経るたびに株主間契約の当事者が増えていくため、契約構造を理解しておくことが自社のガバナンス設計に直結します。法務担当は、種類株式発行要項が会社法上の登記・定款に紐づく文書である点を踏まえ、契約上の合意と登記事項の整合を必ず確認します。

仕組み:3点セットの役割分担

文書規律する範囲法的性質・有効期間
投資契約書払込条件・表明保証・クロージングの前提条件・誓約事項その回の調達に関する債権的契約。クロージングで主要義務が履行され効力が縮小
株主間契約書取締役指名権・拒否権事項・先買権・共同売却権・情報請求権株主である間、継続的に効力を持つ債権的契約(新規投資家を当事者に追加しながら更新)
種類株式発行要項優先株式の内容(残余財産分配・議決権・転換条件)会社法上、定款・登記に紐づく。株主間契約とは異なり第三者にも対抗力を持つ

種類株式発行要項が会社法上の「モノ」としての株式の内容を定めるのに対し、投資契約書・株主間契約書はあくまで契約当事者間の「債権的な」約束にとどまります。この違いから、拒否権条項のように種類株主総会の同意事項として定款に定めておくべき内容と、株主間契約に書けば足りる内容の切り分けが実務上の論点になります。

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:株)。シリーズAラウンドで、投資家が優先株式200,000株を新規に引き受け、調達後の発行済株式総数(as-converted)が1,000,000株になったとします。株主間契約書には「発行済株式の20%以上を保有する株主は取締役1名の指名権を持つ」と定められているとします。

投資家の保有比率 = 200,000 ÷ 1,000,000 = 20%。閾値ちょうど20%であるため、契約書の文言が「20%以上」であればこの投資家は取締役指名権を得ます(「20%超」であれば得ません)。このように、権利発動の閾値と保有比率の端数(19.9%か20.0%か20.1%か)は、実際の投資契約交渉で株数の端数調整にまで影響する重要な論点になります。

案件プロセス上の位置付け

実務上は、タームシート合意後に3点セットのドラフトが並行して作成され、投資契約書のクロージング条件の1つとして「株主間契約書への署名」「種類株式発行要項に基づく定款変更・登記完了」が組み込まれます。つまり3点セットは独立した契約ではなく、投資契約書のクロージングを頂点として相互に前提条件化されているのが実務の標準的な構造です。

実務での調べ方・確認手順

  • 既存の株主間契約に新規投資家を加える際は、既存投資家の権利(先買権・希薄化防止条項等)が新規ラウンドの条件と矛盾しないか、契約書の「当事者」「適用範囲」条項を確認します。
  • 種類株式の内容は登記事項証明書・定款で確認できます。契約書の記載と登記内容に齟齬がないかを、資金調達の実行前に必ず突合します。
  • モデル上は、各ラウンドの株主間契約で定められた閾値(情報請求権・指名権・拒否権それぞれの保有比率要件)を一覧表として管理し、資金調達シミュレーションで各投資家の権利がどの時点で発生・消滅するかを追跡します。

この用語を実務で「使える」状態にする

ラウンドごとの保有比率と契約上の権利閾値をキャップテーブルに紐づけて管理できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「投資契約書に書けば株主間の権利は永続する」→ 正しくは、投資契約書はクロージングで主要義務が履行されると効力が縮小します。継続的な株主間ルールは株主間契約書に書くべき内容です。

誤解2:「株主間契約に書いた優先株式の内容は自動的に第三者にも対抗できる」→ 正しくは、契約は当事者間の債権的合意にとどまり、第三者対抗力を持たせるには定款・登記(種類株式発行要項)に反映する必要があります。

実務家はさらに、複数回のラウンドを経て株主間契約の当事者数が増えるほど「全員一致」を要件とする条項が事実上の機能不全に陥っていないか(改定・放棄の手続要件が現実的か)を確認します。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本のVC実務では、投資契約書・株主間契約書・種類株式発行要項の3点セット構成が広く定着しています(2026年8月時点)。これは米国のNVCA(全米ベンチャーキャピタル協会)標準契約群が複数の契約に機能を分けている構造と共通する部分がある一方、日本では会社法上の種類株式制度(会社法第108条以下)を用いて優先株式の内容を定款・登記に落とし込む点に特徴があります。米国のDelaware州会社法における優先株式は基本定款(Certificate of Incorporation)で内容が定められる点で類似の構造ですが、契約実務の細部(表明保証の範囲、補償の上限設定等)は日米で慣行が異なるため、海外投資家が参加するラウンドでは事前のすり合わせが必要です。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:なぜ投資契約書と株主間契約書を分けて締結するのか説明してください。
「投資契約書はその回の調達に固有の条件(払込条件・表明保証・クロージング条件)を定めるのに対し、株主間契約書は調達後も続く株主同士の継続的なルール(取締役指名権・拒否権・先買権)を定めるためです。分けておくことで、後続ラウンドで新規投資家を株主間契約の当事者に加える際に、前回投資契約固有の条項まで引き継がれる不都合を避けられます。」(30秒回答例)

深掘りでは「種類株式発行要項と株主間契約の内容が矛盾した場合どちらが優先するか」「新規投資家をどのタイミングで株主間契約の当事者に加えるか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 3点セットはすべての資金調達で必須ですか?
A. 小規模なシード期のJ-KISS等では簡易な契約書1本で済ませるケースもありますが、優先株式による本格的なラウンド(シリーズA以降)では3点セット構成が実務標準です。

Q. 株主間契約の当事者が増えすぎると何が問題になりますか?
A. 契約の変更・権利放棄に全株主の同意を要する条項が多いと、株主数の増加とともに意思決定が事実上困難になります。ラウンドを重ねるスタートアップでは、契約変更の要件を「一定割合以上の同意」に緩和しておく設計が実務的です。

出典・参考(2026-08確認)

  • e-Gov法令検索「会社法」(種類株式・株主総会に関する規定) https://elaws.e-gov.go.jp/
  • 経済産業省「未来の起業家がスタートアップを大きく育てられる環境を創出するための調査研究」関連公表資料 https://www.meti.go.jp/

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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