この記事で分かること

  • ホールファンド型(欧州型)とディールバイディール型(米国型)の分配順序の違い
  • 同じファンドで両方式を計算し、GPの受取時期がどう変わるかの整数設例
  • キャッチアップ・優先収益・クローバックが方式ごとにどう効くか
  • 日本のファンド契約でどちらが主流か(2026年7月時点)

30秒で分かる定義

ホールファンド型(欧州型、European Waterfall)とディールバイディール型(米国型、American Waterfall)とは、ファンドがGPへ成功報酬(キャリー)を支払う計算単位と時期の違いを指す2つの方式です。欧州型は、LPが出資総額と優先収益をすべて回収するまでGPにキャリーを一切支払いません。米国型は、案件ごとに損益を精算し、その案件が利益を出していればその都度キャリーを支払います。ファンド全体の最終的な取り分は理論上同じでも、受取時期とリスク負担が大きく異なります

なぜ実務で重要なのか

この方式選択は、LPAの交渉で最も金額インパクトの大きい論点の一つです。

  • LP(年金・金融機関):欧州型なら元本の回収が確実に先行するため、GPが取り過ぎるリスクがありません。米国型を受け入れる場合は、エスクロー留保やクローバックといった安全弁を必ず要求します。
  • GP(運用者):米国型ならキャリーの受取が数年早まります。若いチームや第1号ファンドでは、この現金流入がチームの維持に直結するため、切実な問題です。
  • ファンド管理・LP側の投資担当:既存ファンドのトラックレコードを比較するとき、方式が違えば同じネットIRRでも意味が異なります。分配の中身を読み解く力が必要です。

仕組み(分配順序)

分配ウォーターフォールの2方式 欧州型(ホールファンド):計算単位=ファンド全体 ① 出資総額の返還(全案件合計) ② 優先収益(ハードル)をLPへ ③ GPキャッチアップ ④ 以後 LP80%/GP20% → 全出資を回収するまでGPの取り分はゼロ 米国型(ディールバイディール):計算単位=案件 案件A ①出資返還(A分) ②優先収益(A分) ③キャッチアップ ④80/20 案件B ①出資返還(B分) ②優先収益(B分) ③キャッチアップ ④80/20 → 案件Aの精算時点でGPが受け取る → 後続案件が失敗すると取り過ぎになる → だからクローバック条項が必須 (本文の整数設例=架空数値。キャリー率20%、キャッチアップ100%を前提)
図:計算単位がファンド全体か案件かによって、GPの受取時期と取り過ぎリスクが変わる

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円)。LP出資総額5,000をすべて期首に払い込み、案件Aへ2,000、案件Bへ3,000を投資したファンドを考えます。案件Aは3年目に5,000で回収、案件Bは7年目に6,000で回収しました。キャリー率20%、キャッチアップ100%、優先収益(ハードル相当額)は計算を単純にするため総額1,000と置き、案件別には投資額比で案件A400・案件B600に按分します。

段階欧州型(7年目に一括精算)米国型・案件A(3年目)米国型・案件B(7年目)
回収額11,0005,0006,000
① 出資返還(LP)5,0002,0003,000
② 優先収益(LP)1,000400600
③ キャッチアップ(GP)250100150
④ 残額(LP80%)3,8002,0001,800
④ 残額(GP20%)950500450
GP受取合計1,200(7年目)600(3年目)600(7年目)

検算を確認しましょう。欧州型のキャッチアップ250は、優先収益1,000に対してGPが全体の20%相当に追いつく額であり、20÷80×1,000=250です。④の残額は11,000−5,000−1,000−250=4,750で、これを8対2に分けるとLP3,800・GP950。GP合計は250+950=1,200となり、ファンド全体の利益6,000(=11,000−5,000)の20%と一致します。LP合計は5,000+1,000+3,800=9,800で、GP1,200と足して11,000になります。

米国型も案件Aで100+500=600、これは案件Aの利益3,000の20%です。案件Bも150+450=600で利益3,000の20%。合計1,200は欧州型と同額です。違いは受取時期だけで、GPは3年目に600を手にします。両案件とも利益が出たこの設例では最終的な金額は変わりませんが、もし案件Bが1,000でしか回収できなかった場合、ファンド全体の利益は5,000+1,000−5,000=1,000にとどまり、本来のキャリーは200です。米国型で3年目に600を払っていれば400の取り過ぎとなり、クローバック条項による返還が必要になります。欧州型ではそもそもこの状況が発生しません。

ファンドキャッシュフローへの影響

GPの立場では、この4年の差は事業の持続性に直結します。ファンドエコノミクスで見るとおり、GPの収入は管理報酬とキャリーの二本柱ですが、管理報酬は人件費とオフィス費用でほぼ消えるのが実態です。したがってパートナーの報酬はキャリーに依存し、その受取が10年後になる欧州型では、若いチームほど人材をつなぎとめにくくなります。米国型はこの問題を緩和します。

LPの立場では、時間価値の問題です。米国型で3年目に600がGPへ流出すると、その600はLPの手元に4年間滞在しません。仮にLPの機会費用を年8%とすれば、600×(1.08⁴−1)=約216相当の逸失利益になります(1.08⁴=1.3605)。加えて、後続案件が失敗した場合の返還リスクを負います。LPが欧州型を強く選好するのは、この二重の不利を避けるためです。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 方式スイッチを1セルで持つ:入力シートに「1=欧州型/2=米国型」のセルを置き、ウォーターフォール計算ブロックをCHOOSEまたはIFで切り替えます。条項交渉のインパクトを即座に比較できます。
  • 累計ベースで組む:ウォーターフォールは各期の分配額ではなく、累計回収額を各段階の上限で切り分けるのが正しい設計です。各段階でMIN(残額, 当該段階の上限)を使い、次の段階へ残りを渡します。
  • 優先収益の複利計算:本設例では単純化のため総額で与えましたが、実務では未回収出資額に対する複利で日割計算します。キャピタルコールの実日付を持ち、XIRRと整合する形で積み上げます。
  • キャッチアップ率の可変化:100%キャッチアップ(優先収益に追いつくまで全額GP)と50%キャッチアップでは、GPの受取時期が変わります(GPキャッチアップ)。率を入力セルにしておきます。
  • チェック行:各期でLP分配+GP分配=総回収額となることを検算する行を必ず置きます。ウォーターフォールのバグはここで9割見つかります。

この用語をExcelで「組める」状態にする

累計ベースの4段階ウォーターフォールを組み、欧州型と米国型を1セルで切り替えてLP・GPのIRR差を出せるようにする。

PEディールプロセス教材で分配計算を組む →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

  • 誤解「米国型のほうがGPの総取り分が多い」→総額は同じ。全案件が利益を出す限り、最終的なキャリー総額は方式によらず利益の20%です。異なるのは時期と、損失案件がある場合の精算構造です。
  • 誤解「欧州型ならLPは完全に安全」→報酬の全体像を見る。管理報酬の水準、報酬の相殺(オフセット)率、優先収益の計算方法によってネットリターンは変わります。ウォーターフォール方式だけで有利不利は決まりません。
  • 確認ポイント:出資返還の範囲。米国型でも「当該案件の出資額」だけでなく「これまでに損失を出した案件の出資額と管理報酬の累計」まで先に返す設計(ハイブリッド型)が広く使われています。純粋な案件別方式は近年では少数です。
  • 確認ポイント:優先収益の複利か単利か、および累積か非累積か。同じ8%でも複利・累積であればLPの取り分は明確に増えます。

日本実務での扱い

(2026年7月時点)日本国内で組成されるバイアウトファンドでは、出資総額の回収を優先する欧州型または上記のハイブリッド型が主流です。主要な出資者が企業年金・保険会社・地域金融機関・政府系金融機関といった保守的なLPであり、元本回収の確実性を重視する傾向が強いことが背景にあります。投資事業有限責任組合の組合契約では、分配の順序と優先収益の利率を条文で明記し、無限責任組合員の報酬に関する規定とあわせて構成するのが通例です。

一方、日本のVCファンドや、海外スポンサーが日本向けに組成するファンドでは、案件別要素を含む方式が採られることもあります。いずれの場合も、投資事業有限責任組合契約に関する法律の枠組みの下で、組合員への損益分配と現金分配の関係、および分配時の課税関係(構成員課税)を整理しておく必要があります。分配の税務上の取扱いは出資者の属性によって異なるため、専門家の確認が前提です。ファンド構造の全体像はPEファンドの構造で解説しています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:欧州型と米国型のウォーターフォールの違いを説明してください。
「キャリーの計算単位と支払時期の違いです。欧州型はファンド全体を単位とし、LPが出資総額と優先収益を回収し終えるまでGPは1円も受け取りません。米国型は案件ごとに精算するため、最初のExitの時点でその案件の利益の20%をGPが受け取ります。全案件が利益を出せば総額は同じですが、後続案件が損失を出した場合、米国型ではGPが取り過ぎの状態になるため、クローバック条項とエスクロー留保が不可欠になります。LPは元本回収の確実性から欧州型を選好します。」(30秒回答例)

深掘りでは「GPが米国型を求める理由」(キャリーの受取が数年早まりチームを維持できる)、「ハイブリッド型とは何か」(損失案件の出資額と累計管理報酬まで先に返してから案件別に精算する折衷)が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 名前に「欧州」「米国」とありますが、地域で決まるのですか。
A. 歴史的な発祥地に由来する呼称で、現在は地域とは対応していません。米国のファンドでもファンド全体方式を採るものは多く、逆に欧州のファンドが案件別要素を含む方式を採ることもあります。名称ではなく契約条文で確認するのが実務です。

Q. 不動産ファンドでも同じ考え方ですか。
A. 分配順序の骨格は共通で、優先収益とプロモート(成功報酬)を段階的に設定する点も同じです。ただし不動産では、物件ごとに独立した組合を組成することが多く、複数ハードルを設定して段階的にプロモート比率を上げる設計がよく見られます。

出典・参考(2026-07-21確認)

  • e-Gov法令検索「投資事業有限責任組合契約に関する法律」(https://elaws.e-gov.go.jp/)
  • 経済産業省「投資事業有限責任組合契約に関する法律に係る資料・モデル契約」(https://www.meti.go.jp/)
  • 国税庁「任意組合等の組合員の課税関係」に関するタックスアンサー(https://www.nta.go.jp/)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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