この記事で分かること

  • 資本市場線(CML)と証券市場線(SML)それぞれの定義と数式
  • 両者が「何を横軸に取るか」で根本的に異なる理由
  • 整数設例によるCML・SMLそれぞれの期待収益率の計算
  • CAPM・現代ポートフォリオ理論との関係整理

30秒で分かる定義

資本市場線(Capital Market Line、略称CML)と証券市場線(Security Market Line、略称SML)とは、いずれもリスクと期待収益率の関係を図示した現代ポートフォリオ理論・CAPMの基本図解ですが、横軸に取るリスクの種類が異なります。CMLは「リスクフリー資産と市場ポートフォリオを組み合わせた、効率的な資産配分」の軌跡を、収益率の標準偏差(総リスク)を横軸に示します。SMLはCAPMそのものの図解で、個別資産・ポートフォリオの期待収益率をベータ(市場全体の動きに対する感応度)を横軸に示します。

なぜ実務で重要なのか

アセットアロケーション(資産配分)の議論では、CMLがリスクフリー資産と市場ポートフォリオへの配分比率を変えることで、どのリスク水準でも最も効率的な期待収益率が得られることを示す土台になります。株式リサーチ・資本コスト算定では、SMLが個別銘柄の要求収益率(資本コスト)をベータから算出するCAPMの図解そのものとして使われます。両者を混同すると、現代ポートフォリオ理論全体の整理がつかなくなるため、違いを明確にすることが重要です。現代ポートフォリオ理論全体の枠組みは現代ポートフォリオ理論(MPT)とアセットアロケーション入門で解説しています。

計算式(仕組み)

CML: 期待収益率 = リスクフリーレート +(市場ポートフォリオの期待収益率-リスクフリーレート)÷市場ポートフォリオの標準偏差 × ポートフォリオの標準偏差
SML: 期待収益率 = リスクフリーレート + β ×(市場ポートフォリオの期待収益率-リスクフリーレート)
観点CML(資本市場線)SML(証券市場線)
横軸収益率の標準偏差(総リスク)ベータ(市場感応度)
対象効率的な分散ポートフォリオのみ個別資産・ポートフォリオ全般
線上に乗らない資産非効率な(分散が不十分な)ポートフォリオCAPMの前提上、理論的には全資産が線上に乗る

CMLの横軸「総リスク(標準偏差)」には、分散投資で消去できる非システマティックリスクと、消去できないシステマティックリスクの両方が含まれます。一方SMLの横軸「ベータ」は、システマティックリスクの大きさだけを表す指標です。非効率なポートフォリオはCML上には乗りませんが、CAPMの理論的な前提の下ではベータで測った期待収益率の関係(SML)自体はどの資産についても成立するとされます。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。リスクフリーレート=2%、市場ポートフォリオの期待収益率=8%、市場ポートフォリオの標準偏差=15%とします。

CML:標準偏差10%の効率的ポートフォリオの期待収益率=2%+(8%-2%)÷15%×10%=2%+6%÷15%×10%=2%+4%=6%

SML:ベータ1.3の個別株式の期待収益率=2%+1.3×(8%-2%)=2%+1.3×6%=2%+7.8%=9.8%

同じ「リスクフリーレート2%・市場期待収益率8%」という前提でも、CMLは「総リスクをどれだけ取るか」から、SMLは「市場との連動性(ベータ)がどれだけ高いか」から、全く異なる切り口で期待収益率を求めていることが確認できます。

投資判断への影響

CMLは、リスクフリー資産と市場ポートフォリオ(インデックス投資)を組み合わせるだけで、狙った総リスク水準に対して最も効率的な期待収益率を得られることを示しています。この考え方が、個別銘柄選択に頼らないパッシブ運用・アセットアロケーション重視の投資哲学の理論的な出発点になります。SMLは、個別資産の要求収益率(割引率)を決める場面、例えばDCF法での株主資本コストの算定で直接使われる関係式です。CML上のポートフォリオでなくても、SMLの関係自体はCAPMの前提下では成立するという整理が実務でも理論でも重要です。

財務モデル・Excelでの使い方

  • DCFモデルの株主資本コストのセルでは、SMLの式(=リスクフリーレート+ベータ*(市場期待収益率-リスクフリーレート))をそのまま実装するのが標準的なCAPMの計算方法である
  • アセットアロケーションの検討シートでは、CMLの式を使い、目標とする総リスク水準ごとにリスクフリー資産と市場ポートフォリオへの配分比率を逆算する行を作る
  • 2つの式を同じシートに並べ、入力(リスクフリーレート・市場期待収益率)を共通のセルで参照させておくと、前提を変えた際の両方への影響を同時に確認できる

この用語をExcelで「組める」状態にする

CAPMの株主資本コスト計算(SML)とアセットアロケーションの効率的配分(CML)を、共通の前提セルから同時に計算できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「CMLとSMLは同じ図の呼び方違い」→ 正しくは、横軸がまったく異なり(総リスク vs ベータ)、対象とする資産の範囲も異なります(効率的ポートフォリオのみ vs 全資産)。

誤解2:「SML上に乗らない資産は割高・割安の投資機会」→ 正しくは、実証的にはSMLからの乖離はしばしば観測されますが、これはCAPM自体の限界を示す可能性もあり、単純に投資機会と断定できるとは限りません。この論点は裁定価格理論(APT)等のマルチファクターモデルが生まれた背景の一つです。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本の実務でも、株主資本コストの算定にはSMLの関係式(CAPM)が最も広く使われており、企業価値評価・M&Aのフェアネスオピニオン・投資判断の場面で標準的な手法として定着しています(2026年8月時点)。一方でCMLの考え方は、年金基金や機関投資家のアセットアロケーション方針を検討する際の理論的基礎として、投資方針書(IPS)の策定過程等で参照されます。日本証券業協会や運用業界団体が提供する投資家教育資料でも、リスクとリターンの基本的な関係を説明する図として、CML・SMLに類する図解がしばしば用いられます。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:CMLとSMLの違いを、横軸の観点から説明してください。
「CMLは横軸に収益率の標準偏差(総リスク)を取り、リスクフリー資産と市場ポートフォリオを組み合わせた効率的な配分の軌跡を示します。SMLは横軸にベータ(市場感応度)を取り、CAPMに基づいて個別資産・ポートフォリオの期待収益率を示します。CMLは効率的なポートフォリオだけが乗る線ですが、SMLはCAPMの前提下で全ての資産が理論上乗る線という違いがあります。」(30秒回答例)

深掘りでは「なぜ非効率なポートフォリオはCML上に乗らないのか」「SMLからの乖離が意味すること」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. CMLとSMLはどちらも右上がりの直線ですか?
A. はい、いずれもリスクプレミアムが正という前提の下では右上がりの直線として描かれます。ただし傾きの意味はCMLが「シャープレシオ(市場ポートフォリオの)」、SMLが「市場リスクプレミアム」と異なります。シャープレシオ自体の考え方はリスク調整後リターンの指標で扱っています。

Q. 個別銘柄はCML上に描けますか?
A. 個別銘柄は通常、市場ポートフォリオほど分散が効いていないため非効率であり、CML上ではなくその内側(同じリスクに対して期待収益率が低い位置)にプロットされます。SML上には(CAPMの前提下では)個別銘柄も理論上乗ります。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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