この記事で分かること
- 財産評定(時価評定)の定義と、通常の企業価値評価との違い
- 処分価格ベースで評定する理由
- 簿価と処分価格の差を確認する整数設例
- 清算価値保障原則との関係
30秒で分かる定義
財産評定(時価評定)とは、民事再生・会社更生の手続開始時に、裁判所への提出資料として、対象企業の資産を帳簿価額ではなく時価・処分価格で評価し直す義務的な評定手続です。通常の企業価値評価(DCF法やマルチプル法による事業価値の算定)とは異なり、財産評定は個々の資産を「今、処分したらいくらで換金できるか」という観点で評価する点が特徴です。この評定結果は、後述する清算価値の算定根拠となり、再生・更生計画の妥当性を判断する土台になります。
なぜ実務で重要なのか
- 事業再生アドバイザー・会計士:民事再生・会社更生の手続開始後、財産評定は法定された義務であり、期限内に評定結果を裁判所へ報告する必要があります。
- 債権者:財産評定の結果算出される清算価値は、再生・更生計画による弁済額が「清算した場合を下回っていないか」を判断する基準になり、清算価値保障原則の充足性を確認する際の土台となります。
- バリュエーション実務者:通常のバリュエーション(継続企業を前提とした事業価値評価)とは異なる「清算・処分」を前提とした評価手法を理解する機会になります。
仕組み:簿価評価と処分価格評価の違い
| 資産項目 | 帳簿価額の考え方 | 財産評定(処分価格)の考え方 |
|---|---|---|
| 売掛金 | 請求額そのまま計上 | 回収可能性を反映した減額評価 |
| 在庫 | 取得原価または低価法 | 投げ売り・処分市場での想定売却価格 |
| 土地・建物 | 取得原価(減価償却後) | 市場での実勢処分価格(不動産鑑定等) |
| のれん・自己創設無形資産 | 計上されない、または償却対象 | 原則としてゼロ評価(継続企業前提の価値は反映しない) |
整数設例で確認する(架空の民事再生申立企業L社)
設例(架空数値・単位:百万円)。L社の簿価ベースの資産合計は1,000(内訳:売掛金200、在庫150、土地建物500、その他150)。
- 財産評定後の処分価格:売掛金は回収可能性を勘案し150(簿価比75%)、在庫は投げ売りを想定し60(簿価比40%)、土地建物は実勢価格で420(簿価比84%)、その他は100(簿価比67%)と評価。
- 財産評定後の資産合計:150+60+420+100=730。
- 簿価との差:1,000-730=270の評価減。
検算:150+60+420+100=730で一致しています。簿価1,000に対し処分価格ベースでは730と、27%の評価減となりました。この730が、清算価値(負債総額との比較で清算配当率を算定する基礎)の出発点になります。この設例から、財産評定は継続企業としての収益力を反映しない、あくまで「今すぐ処分したらいくらか」という保守的な評価であることが確認できます。
案件プロセス上の位置付け
財産評定の結果は、負債総額と比較することで清算配当率(清算した場合に債権者が回収できる割合の目安)の算定に使われます。この清算配当率が、再生・更生計画で提示される弁済率の下限を画す基準となり、清算価値保障原則(計画による弁済が清算した場合を下回ってはならないという考え方)の充足性判断に直結します。財産評定は手続開始後の早い段階で実施することが法律上求められており、その後の再生・更生計画の策定作業の前提となる重要な基礎資料です。
財務モデル・Excelでの使い方
- 資産項目ごとに簿価・評定後価格・評価減率の3列を持つ:資産のカテゴリごとに処分価格の掛け目(アドバンスレートに近い考え方)を設定し、SUMで評定後資産合計を算出します。
- 清算配当率の計算行を接続する:評定後資産合計から優先弁済(担保付債権・労働債権等)を控除した残余を、一般債権額で割って清算配当率を算出します。
- 再生計画の弁済率との比較表を作る:計画上の弁済率が清算配当率を上回っているかを一目で確認できる比較表を用意します。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
- 誤解「財産評定は通常のバリュエーションと同じ」→前提が根本的に異なる。通常の企業価値評価は継続企業(ゴーイングコンサーン)を前提に将来キャッシュフローを評価しますが、財産評定は個々の資産を清算・処分する前提で評価する点が本質的に異なります。
- 誤解「評定額が低いほど計画は認可されやすい」→むしろ弁済率のハードルが下がるだけ。評定額(清算価値)が低ければ計画弁済率のハードルは下がりますが、それ自体が計画の実現可能性や公平性を担保するわけではありません。
- 確認ポイント:評定の恣意性排除。処分価格の算定根拠(不動産鑑定・専門家評価等)が客観的に説明できるかどうかは、債権者からの異議・裁判所の審査で重要な論点になります。
日本実務での扱い
(2026年7月時点)財産評定は民事再生法・会社更生法にそれぞれ規定される義務的な手続で、手続開始後の一定期間内に、貸借対照表や財産目録の形で裁判所へ提出することが求められます。実務では公認会計士等の専門家が評定作業を担い、不動産については不動産鑑定士による鑑定評価を併用することが一般的です。財産評定の結果は、その後の再生・更生計画案の弁済率設計における最低限のベンチマークとして機能し続けます。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:財産評定とは何ですか。通常のバリュエーションとの違いを説明してください。
「財産評定は、民事再生・会社更生の手続開始時に、資産を時価・処分価格で評価し直す義務的な評定手続です。通常のバリュエーションが継続企業を前提に将来キャッシュフローの割引現在価値等で企業価値を算定するのに対し、財産評定は個々の資産を『今すぐ処分したらいくらか』という保守的な観点で評価します。評定結果は清算価値の算出根拠となり、再生・更生計画の弁済率が清算価値を下回っていないかを判断する基準になります。」(30秒回答例)
深掘りでは「のれん等の無形資産の扱い」や「清算価値保障原則との関係」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 財産評定はなぜ簿価より低くなることが多いのですか?
A. 通常の事業運営を前提とした帳簿価額に対し、財産評定は「今すぐ処分する」という保守的な前提で評価するため、投げ売りによる目減りや回収可能性の低下を織り込む分、簿価を下回るのが一般的です。
Q. 財産評定の結果は誰が作成しますか?
A. 一般的には対象企業(または管財人)が主体となり、公認会計士等の専門家の関与のもとで作成します。不動産等の重要資産については、不動産鑑定士等の専門家評価を併用することが多いです。
出典・参考(2026-07-25確認)
- 法務省(民事再生法・会社更生法の概要) https://www.moj.go.jp/
- e-Gov法令検索(民事再生法・会社更生法) https://elaws.e-gov.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。