この記事で分かること

  • AIを使った財務モデリング=生成AIで数式の下書き・チェック・説明生成を支援する進め方であること
  • どの工程でAIが有効で、どの工程は依然として人による検証が必須なのか
  • 整数設例で見る、AIが生成した数式を検証する具体的な手順
  • 機密情報の取り扱いと、日本の金融機関での利用実態

30秒で分かる定義

AIを使った財務モデリングとは、生成AIを使って数式の下書き作成・既存モデルのチェック・計算ロジックの説明生成などを支援する、新しいモデリングの進め方のことです。英語では AI-Assisted Financial Modeling(読み方:エーアイをつかったざいむもでりんぐ)、生成AIによるモデル支援・Copilot for Excelとも呼ばれます。財務モデリングの骨格(前提・計算・出力の三層構造、3表連動の考え方)自体はAIの登場前と変わりませんが、数式の草稿を書く、既存の数式の意味を説明させる、ミスを指摘させるといった作業の一部をAIに任せられるようになった点が新しい変化です。最終的な数値の正しさを検証する責任は依然として人にあります。

なぜ実務で重要なのか

投資銀行・PEファンドでは、Excel専用のAIアシスタント機能や、チャット形式のAIツールに数式や関数の書き方を尋ねる使い方が急速に広がっています。複雑なSUMIFSやINDEX/MATCHの組み合わせ、VBAマクロの下書きをAIに生成させ、それを人が検証・修正するという分業が実務に定着しつつあります。一方で、AIは「もっともらしいが実際には誤っている」数式や説明を生成することがあり(いわゆるハルシネーション)、財務モデルのように1つの誤りが投資判断を左右する領域では、AIの出力をそのまま信じて使うことは許されません。この検証プロセスをどう設計するかが、AIをモデリングに活用する上での中心的な論点です。

計算式(または仕組み)

AIの活用領域と、人による検証が必須な領域を整理します。

工程AIが支援できること人が必ず担う部分
数式の下書きSUMIFS・XLOOKUP等の構文候補の提示セル参照・条件範囲の妥当性確認
前提の設定業界一般の相場観の提示対象企業固有の事情の反映・最終判断
数式の説明既存モデルの数式の意味を要約要約が実際の計算と一致するかの確認
誤り検出パターンから外れた数式の指摘指摘の妥当性判断・最終責任
AI生成の数式・数値は、必ず独立した方法(暗算・別関数・既知の実績値)で再検証してから採用する

整数設例で確認する

設例(架空数値)。単位は百万円。AIに「売上高10,000、EBITDAマージン20%の会社のEBITDAを求める数式を書いて」と依頼し、=売上高セル*EBITDAマージンセルという数式が提案されたとします。

暗算での検算:10,000 × 20% = 2,000。この数式をExcelに実装した結果も2,000であれば一致し、数式自体は正しいと確認できます。ここまでは問題ありません。

次に「このEBITDAから、EV/EBITDA8倍でのEVを求めて、そこからネットデット3,000を引いて株式価値を出して」と続けて依頼した場合を考えます。AIが提示した計算過程に誤りがあり、「EV = 2,000 × 8 = 16,000」までは正しいのに、「株式価値 = 16,000 + 3,000 = 19,000」とネットデットを加算する誤った数式(本来は減算すべき)を提案してしまうケースが実際に起こり得ます。正しくは株式価値 = 16,000 − 3,000 = 13,000です。AIは個々のステップで正しい計算をしていても、複数ステップをつなげる過程で符号や論理を誤ることがあり、各ステップを人が独立に検算する習慣が欠かせません。

案件プロセス上の位置付け

AIの活用は、モデル構築の下書き・効率化の工程に位置づけられ、投資判断そのものの根拠にはなりません。投資委員会やクライアントへの提出物には、AIが生成した数式・文章がそのまま反映されることがあっても、その内容の正しさを保証するのは作成者本人です。案件によっては、機密情報を含むモデルデータをAIツールへ入力すること自体が禁止されているため、社内のAI利用ポリシーの確認が実務上の前提になります。財務モデルのクオリティチェック(QC)のプロセスは、AIを使ったかどうかにかかわらず同じ基準で適用されます。

財務モデル・Excelでの使い方

  • AIに数式を生成させる場合は、意図(何を、どの範囲で、どの条件で計算したいか)を具体的に伝え、生成された数式のセル参照が実際のシート構造と一致しているかを必ず確認する
  • VBAマクロの下書きをAIに作らせる場合も、実行前に必ずコードの内容を読んで理解し、想定通りの動作かをテスト環境で確認する
  • AIに既存モデルのレビューを依頼する場合は、機密情報(企業名、具体的な財務数値)をマスキングした状態で依頼するか、社内で完結する環境のツールを使う
  • AIの出力を鵜呑みにせず、検算チェックの設計桁感チェックを人の手で必ず併用する

この用語をExcelで「組める」状態にする

AI生成の数式を独立した検算とセル参照確認で必ず検証し、機密情報を守りながらモデリング作業を効率化できるようになる。

Excel実務シリーズの教材で実装する →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「AIが作った数式はAIが検証済みだから正しい」→ AIは統計的にもっともらしい出力を生成しますが、対象モデルの実際の構造を理解した上での保証はしていません。必ず人が独立に検算します。

誤解2:「AIを使うと不誠実、あるいは評価が下がる」→ 実務では効率化の手段として広く受け入れられつつあります。問題視されるのは検証を怠ることであって、AIの利用そのものではありません。

誤解3:「AIに任せれば前提の妥当性判断も不要になる」→ 対象企業固有の事情(競争環境、規制、経営陣の意図)を反映した前提設定は、依然として人の専門的判断が必要な領域です。

確認ポイント:AIを使った箇所とそうでない箇所を区別せず、モデル全体に同じ基準の検証プロセスを適用しているかを確認します。

日本実務での扱い

日本の金融機関・事業会社では、機密情報保護の観点から、外部の生成AIサービスへの顧客情報・未公開の財務情報の入力を制限する社内規程を設ける動きが広がっています。金融商品取引法上のインサイダー取引規制との関係でも、未公表の重要事実を含むデータを外部AIサービスに入力することは慎重な取り扱いが求められます(2026年7月時点)。実務では、社内に閉じた環境で動作するAIツールの導入や、入力データのマスキングルールの整備が進められており、AIの活用と情報管理の両立が実務上の課題になっています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:モデリング業務でAIツールをどう活用していますか?
「関数の構文を思い出す時間の節約や、既存モデルの数式の意味を素早く把握する目的で使っています。ただしAIが生成した数式や計算結果は、必ず暗算や別の方法での検算を通してから採用しています。また機密情報を含むデータは、社内の許可されたツール以外には入力しないという情報管理のルールを守った上で活用しています。」

深掘りでは「AIが誤った出力をした具体的な経験」「情報管理とAI活用のバランスをどう取るか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. AIにモデル全体を作らせることはできますか?
A. 定型的なテンプレートの骨格作成には使えますが、対象企業固有の事業構造や前提を反映した完成度の高いモデルは、依然として人による設計と検証が必要です。AIは補助的な下書き作成ツールとして位置づけるのが実務上の現実的な使い方です。

Q. AIを使った作業とそうでない作業で、成果物の質にどう差が出ますか?
A. 検証プロセスを適切に踏んでいれば、AIを使っても使わなくても最終的な成果物の質に差は生じません。差が出るとすれば、検証を怠った場合にAIのハルシネーションによる誤りが混入するリスクがある点です。

出典・参考(2026-07-25確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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