この記事で分かること
- クーポン利回り・直接利回り・YTM(最終利回り)の違いと、混同したときの実害
- 額面100・クーポン2%・残存5年・価格95の債券のYTMを求める計算プロセス(試行とExcel)
- 価格と利回りの逆相関、クレジットスプレッド、LBOのデット・プライシングへの接続
導入:「利回り2%の債券」は2%では回らない
クーポン2%の債券を95円で買ったら、リターンは2%ではありません。毎年のクーポンに加えて、満期に95で買ったものが100で償還される値上がり分が乗るからです。この「クーポン+償還差益を合わせた真の利回り」がYTM(Yield to Maturity・最終利回り)。債券の世界の共通言語であり、社債・ローン・LBOファイナンスの価格感覚の土台です。
結論
- YTMは「将来CF(クーポン+償還)の現在価値を現在価格に一致させる割引率」。定義上、債券版のIRRである。
- 設例(額面100・クーポン2%・残存5年・価格95)のYTMは約3.09%。クーポン2%との差1ポイント強が償還差益の寄与。
- 価格と利回りは逆方向に動く。「債券が売られた(価格低下)=利回り上昇」という市場ニュースの読み方はここから。
基礎:3つの利回りを区別する
| 指標 | 値 | 計算 |
|---|---|---|
| クーポンレート(表面利率) | 2.00% | 2÷額面100。価格と無関係 |
| 直接利回り | 2.11% | 2÷価格95。償還差益を無視 |
| YTM(最終利回り) | 約3.09% | クーポン+償還差益を年率化 |
YTMの計算は方程式「95=2×年金現価係数(y,5)+100÷(1+y)^5」を満たすyを探す作業で、解析解はなく試行(またはExcelのIRR/RATE関数)で求めます。y=3%と置くと右辺は約95.4(価格より高い→利回りをもっと上げる)、y=3.2%で約94.5(下げる)——挟み撃ちで約3.09%に収束します。この「価格が高すぎれば利回りを上げて試す」という手続き自体が、価格と利回りの逆相関の体感になっています。
概算式と直感
面接や暗算では概算式が便利です:YTM≒(年間クーポン+償還差益÷残存年数)÷平均投資額。設例なら(2+5÷5年)÷97.5=3÷97.5≒3.08%——精密解3.09%とほぼ一致します。分子の「償還差益÷年数」は値上がり分の年割り、分母の97.5は購入価格95と額面100の平均。ディスカウント債(100未満)はクーポンよりYTMが高く、プレミアム債(100超)は低いという関係も、この式から一目で読めます。
クレジットスプレッド:利回りの分解
社債のYTMは同年限の国債利回り+クレジットスプレッドに分解して読みます。設例のYTM3.09%のとき5年国債が1.0%なら、スプレッドは約2.1%——これが「この発行体の信用リスクの値段」です。スプレッドは格付が低いほど、期間が長いほど、市況が不安定なほど広がる傾向があり、発行体が変わらなくてもスプレッドの市場全体の開閉で価格は動きます。信用力の指標(レバレッジ倍率・カバレッジ)との接続は安全性分析の指標体系、負債スケジュールの組み方は【構築】デットスケジュールをゼロから作るを参照してください。
LBOへの接続:ローン・ハイイールドの利回り感覚
LBOの資金調達では、シニアローンは変動金利(基準金利+スプレッド)、劣後性の高い債券は固定クーポンで発行されるのが典型です。ここでYTMの感覚が効きます——額面より安く発行(OID)されるローンの実質コストはクーポンより高い、コールプロテクション(早期償還制限)の有無で投資家の実現利回りが変わるなど、LBOモデルの金利前提の裏には常に債券数学が座っています。モデルで金利を「なんとなく5%」と置く前に、その時点の市場のスプレッド水準から積み上げる癖をつけると、前提の説得力が一段上がります(LBOの資本構成はLBOモデルの作り方)。
面接での聞かれ方
「金利が上がると債券価格はなぜ下がるのですか」——新発債がより高い利回りで出てくる以上、既発の低クーポン債は価格を下げて利回りを揃えないと買い手がつかないから。裁定の言葉で説明するのが最短です。「クーポン2%・価格95のYTMは2%より高いか低いか」と聞かれたら、償還差益が乗るぶん高い、と即答——本記事の概算式まで添えられれば十分に差がつきます。
よくある誤解
- 「利回り=クーポンレート」——価格が額面から乖離した瞬間に別物になる。ニュースの「長期金利」はYTMの方。
- 「YTMは実現が約束された利回り」——途中売却すれば価格変動を被り、クーポンの再投資利回りも変動する。満期保有・再投資一定という条件付きの数字。
- 「スプレッドは発行体の信用力だけで決まる」——市場全体のリスク選好で開閉する。同じ会社の社債でも市況次第で価格は動く。
まとめ
- YTMは債券版IRR。設例の錨:額面100・クーポン2%・残存5年・価格95→約3.09%。
- 概算式(クーポン+差益年割り)÷平均投資額≒3.08%で暗算検算。
- 社債利回り=国債+スプレッド。LBOの金利前提はこの分解から積み上げる。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。