この記事で分かること
- 試算表からモデルの実績(Historicals)欄を作る作業の全体像
- 会計システムの科目体系とモデルの科目体系が一致しない理由
- 整数設例で見る、勘定科目マッピング後の運転資本の集計
- 電子帳簿保存法など日本の会計実務との関係(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
試算表からのモデル化(Trial Balance to Model Historicals)とは、月次試算表に記載された勘定科目を財務モデルの科目体系に対応づけ(マッピング)、モデルの実績欄(Historicals)を作成する作業のことです。会計システムが吐き出す試算表は経理の管理都合で科目が細かく分かれていることが多く、そのままモデルに転記しても分析に使いにくいため、モデルの粒度に合わせた集約・組み替えが必要になります。
なぜ実務で重要なのか
FP&A・経営企画では、月次決算のたびに試算表からモデルへ実績を反映する作業が発生し、この工程の効率化が月次業務全体の速度を左右します。FAS(財務DD)では、対象会社から提供された試算表を独自の分析科目体系に組み替える作業が、DD初期の最も工数のかかる工程の1つです。PEでは、投資後のモニタリングで投資先各社の試算表を統一フォーマットに変換し、ポートフォリオ横断で比較できるようにする際にも同じ考え方が使われます。
仕組み:勘定科目マッピング
| 試算表の科目(例) | モデルの科目 |
|---|---|
| 売掛金、未収入金 | 売上債権 |
| 商品、製品、仕掛品 | 棚卸資産 |
| 買掛金、未払費用(仕入関連) | 仕入債務 |
| 短期借入金、1年内返済長期借入金 | 有利子負債 |
整数設例で確認する
設例(架空数値、単位:千円)。試算表に、現金及び預金15,000、売掛金22,000、棚卸資産18,000、買掛金12,000、短期借入金10,000、その他流動負債3,000が計上されていたとします。
これをモデルの科目に集約すると、運転資本 = 売上債権22,000 + 棚卸資産18,000 - 仕入債務12,000 = 28,000千円です(22,000+18,000=40,000、40,000-12,000=28,000)。有利子負債は短期借入金10,000をそのままマッピングし10,000千円となります。「その他流動負債3,000」は運転資本にも有利子負債にも該当しない残余項目として、別行で管理し、マッピング表から漏れていないかを検算します。
案件プロセス上の位置付け
試算表からのモデル化は、財務DDやモデル構築プロジェクトの初期段階、すなわちHistoricals(実績)を整備する工程で行われます。ここで作られたマッピング表は、以降の月次更新でも繰り返し使われる土台になるため、初期段階での丁寧な設計が後工程全体の効率を左右します。マッピングが粗いまま進めると、後になって財務諸表の正常化の工程で科目の組み替えをやり直す手戻りが発生します。
財務モデル・Excelでの使い方
- 試算表科目コードとモデル科目を対応づけるマッピングテーブルを専用シートに用意する
- XLOOKUP・VLOOKUPでマッピングテーブルを参照し、SUMIFで同じモデル科目に属する複数の試算表科目を自動集計する
- マッピングされなかった科目(未分類)が残っていないかをチェック行で検算し、試算表合計とモデル合計の突合を行う
- 勘定科目の新設や組織再編で科目コードが変わった場合に備え、マッピングテーブルは定期的に見直す
全体のモデル構築の進め方は財務モデリング完全ガイドを参照してください。
この用語をExcelで「組める」状態にする
試算表の科目をモデル科目にマッピングし、自動集計されたHistoricals欄を毎月ワンクリックで更新できる仕組みを組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「試算表の科目名がモデルの科目名と一致していれば十分」→ 正しくは、会計システムの科目体系は経理の管理都合で細分化されており、モデルの粒度と一致しないことが多いため、マッピング表による集約が前提になります。
誤解2:「一度マッピングすれば恒久的に使い回せる」→ 正しくは、勘定科目の新設や組織再編で科目コードが変わることがあり、定期的な見直しが必要です。
誤解3:「試算表の数値をそのままHistoricalsに転記すれば終わり」→ 正しくは、決算整理仕訳前の月次試算表と決算確定後の数値には差異が生じ得るため、確定値との突合が必要です。
日本実務での扱い(2026年8月時点)
日本の会計実務では、電子帳簿保存法により総勘定元帳・試算表などの国税関係帳簿を電子データで保存する要件が整備されており、経理システムから試算表データをエクスポートしてモデルに取り込む作業フローは一般化しています。中小企業では、中小企業庁が示す「中小企業の会計に関する基本要領」等に基づく簡易な科目体系が使われることもあり、上場企業のモデルより勘定科目の粒度が粗くなる点に注意が必要です。連結対象子会社が複数ある場合は、各社の試算表を個別にマッピングした上で合算し、連結消去仕訳相当額を別途調整します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:試算表からモデルのHistoricalsを作る際、最も気をつけるべき点は何ですか。
「会計システムの科目体系とモデルの科目体系が一致しないことが前提であり、両者を対応づけるマッピング表を作成し、未分類の科目が残らないよう試算表合計とモデル合計を突合することが最も重要です。マッピング表は組織再編や科目新設で変わり得るため、一度作って終わりにせず定期的に見直します。」
深掘りでは「決算確定前の試算表を使ってよいか」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 決算確定前の月次試算表を使ってよいですか?
A. 速報値として暫定的に使うことは可能ですが、決算整理仕訳や監査調整で数値が変わり得るため、確定後の数値に差し替える前提であることをモデル上に明記しておくべきです。
Q. 連結試算表がない場合はどうしますか?
A. 各社の個別試算表をマッピング表経由で合算し、内部取引の消去仕訳に相当する調整額を別行で加減算します。
出典・参考(2026-08確認)
- 国税庁(電子帳簿保存法の概要) https://www.nta.go.jp/
- 中小企業庁「中小企業の会計に関する基本要領」関連情報 https://www.chusho.meti.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。