この記事で分かること

  • ALM(資産負債総合管理)とデュレーションギャップの考え方
  • 金利変動が銀行の純資産価値(EVE)に与える影響
  • 整数設例によるデュレーションギャップと評価損の計算
  • IRRBB(銀行勘定の金利リスク)としての規制上の位置付け

30秒で分かる定義

ALM(きんりりすくかんり、Asset Liability Management:資産負債総合管理)とは、銀行が保有する資産と負債の金利感応度(デュレーション)の差から生じる、金利変動時の純資産価値への影響を管理する手法のことです。資産と負債のデュレーションが一致していない場合、金利が変動すると資産の時価変動と負債の時価変動が相殺されず、純資産価値(EVE:Economic Value of Equity)が変動します。この差を「デュレーションギャップ」と呼び、銀行の金利リスク管理の中心的な指標です。

なぜ実務で重要なのか

銀行の資金管理(ALM部門)では、預金(多くが短期・要求払い)と貸出・有価証券(長期のものも多い)の金利感応度のミスマッチを継続的に管理することが、経営の根幹業務のひとつです。リスク管理では、IRRBB(銀行勘定の金利リスク)として、自己資本規制とは別枠で金融庁のモニタリング対象になっています。クレジット分析でも、金利上昇局面で銀行の収益・純資産にどの程度の影響が及ぶかの評価にデュレーションギャップ分析が使われます。

仕組み(デュレーションギャップの計算)

デュレーションギャップ = 資産の加重平均デュレーション -(負債の加重平均デュレーション × 負債時価 ÷ 資産時価)

デュレーションギャップがプラスの場合、資産の方が負債よりも金利感応度が高いことを意味し、金利上昇時は資産の時価下落が負債の時価下落を上回り、純資産価値(EVE)は悪化します。逆に金利が低下すれば純資産価値は改善します。銀行はこのギャップの大きさと金利見通しに応じて、資産・負債の構成やデリバティブによるヘッジを調整します。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。ある銀行の資産(貸出金・有価証券)の時価は10兆円、加重平均デュレーションは5年とします。負債(預金等)の時価は9兆円、加重平均デュレーションは2年とします。

  • デュレーションギャップ = 5 -(2 × 9兆円 ÷ 10兆円)= 5 - 1.8 = 3.2年

ここで金利が一律に+1%(100bp)上昇するショックを想定すると、デュレーションを用いた線形近似で純資産価値の変化を試算できます。

純資産価値(EVE)の変化(近似)= - デュレーションギャップ × 資産時価 × 金利変化幅
  • EVE変化 = - 3.2 × 10兆円 × 1% = -3,200億円(純資産価値の悪化)

資産が負債よりも長いデュレーションを持つため、金利上昇局面ではこの銀行の純資産価値が3,200億円悪化する計算になります。銀行がこのリスクを抑えたい場合、資産のデュレーションを短くする、負債のデュレーションを長くする、あるいは金利スワップで実質的に短縮するといった対応が考えられます。

融資審査への影響

金利リスク管理の巧拙は、銀行自身の融資姿勢に間接的に影響します。デュレーションギャップが大きく金利リスクへの備えが薄い銀行は、金利上昇局面での純資産価値の毀損を避けるため、長期固定金利での大型融資に慎重になる傾向が生じます。逆に、デュレーションギャップを適切にヘッジできている銀行は、長期融資を積極化する余地が相対的に大きくなります。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 銀行モデリングでは、資産・負債それぞれの残存期間別残高を集計し、加重平均デュレーションを算出したうえでデュレーションギャップを計算する行を作ります。
  • 金利ショックシナリオ(±100bp、±200bp等)を複数設定し、EVEへの影響を一覧表示する感応度分析表を組みます。
  • 金利スワップによるヘッジ効果を織り込む場合、スワップの想定元本・デュレーションを資産・負債とは別枠で加算し、ヘッジ後のネットのデュレーションギャップを再計算します。

この用語をExcelで「組める」状態にする

資産・負債のデュレーションからギャップを計算し、金利ショックシナリオごとのEVE変化を試算できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解:「デュレーションギャップがゼロであれば金利リスクは完全にゼロ」→ 正しくは、デュレーションによる近似はあくまで線形近似であり、大幅な金利変動ではコンベクシティの影響が無視できなくなります。また、預金には契約上の満期がなくても実際には粘着的に残る「コア預金」という性質があり、実効デュレーションの設定次第でギャップの計算結果が大きく変わる点にも注意が必要です。

実務家はさらに、金利上昇が純資産価値(EVE)に与える影響だけでなく、当期の資金利益(NII)に与える短期的な影響もあわせて評価し、長期の時価ベースと短期の損益ベース双方でリスクを管理します。

日本実務での扱い(2026年7月時点)

金融庁は銀行に対し、IRRBBの管理体制の整備とモニタリングを求めており、バーゼル銀行監督委員会が定める国際的な枠組み(自己資本に対するEVE変化の割合が一定基準を超える銀行を監督上の注視対象とするアウトライヤー基準)に沿った運用が行われています。日本銀行の金融政策の変更は、銀行のALM運営・デュレーションギャップの管理方針に直接的な影響を与える要因として常に注視されています(2026年7月時点)。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:デュレーションギャップがプラスの銀行は、金利上昇局面でどうなりますか。
「デュレーションギャップがプラスということは、資産の方が負債よりも金利感応度が高いことを意味します。金利が上昇すると資産の時価下落幅が負債の時価下落幅を上回るため、純資産価値(EVE)は悪化します。逆に金利が低下すれば改善します。銀行はこのリスクをヘッジするため、金利スワップの活用や資産・負債の期間構成の見直しを行います。」(30秒回答例)

深掘りでは「EVEとNIIの視点の違い」「コア預金の実効デュレーションの設定方法」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. なぜ銀行は預金より長いデュレーションの資産を持つのですか?
A. 一般に、長期の貸出・有価証券投資の方が短期の運用より高い利回りが期待できるため保有されます。ただし、これは同時に金利上昇時の純資産価値の毀損リスクを引き受けることを意味し、ALMによる継続的な管理が必要になります。

Q. デュレーションギャップの管理と信用リスク管理はどう違いますか?
A. 信用リスクは貸出先の返済能力に関するリスクであるのに対し、金利リスクは市場金利の変動そのものが資産・負債の価値に与える影響に関するリスクです。両者は独立したリスク要因として別々に管理されます。

出典・参考(2026-07-21確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。