この記事で分かること
- ビルダーバスケット(制限支払い累積枠)の定義と算定式
- 整数設例で確認する、残高の積み上がり方と配当への充当
- 配当リキャップの実行可否を左右する契約上の位置付け
- 日本のLBOローン契約における位置付け(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
ビルダーバスケット(Builder Basket for Restricted Payments、読み方:びるだーばすけっと)とは、LBOローン契約(クレジットアグリーメント)上、借入人の累積純利益等の実績に応じて、配当・自己株買い・劣後債務の任意期限前弁済といった「制限支払い(Restricted Payments)」を行える枠が徐々に積み上がっていく条項です。「アベイラブル・アマウント・バスケット」「累積制限支払い余力」とも呼ばれます。配当リキャップを実行できるかどうかを左右する、契約上の実務的な制約になります。
なぜ実務で重要なのか
PEスポンサーにとっては、投資先の業績が計画を上回って推移した場合に、いつ・いくらまで配当リキャップができるかを判断する材料になります。レンダー(貸し手)にとっては、借入人が生み出した利益の範囲内でしか株主還元を認めないことで、過度なレバレッジの再拡大に一定の歯止めをかける仕組みです。投資銀行・FASにとっては、既存の借入契約の下でどこまで配当余力があるかを試算することが、リファイナンス提案や資本政策アドバイスの前提になります。この試算はレンダー交渉の場面で、追加借入の可否とあわせて論点になることもあります。
仕組み:ビルダーバスケットの積み上がり方
「累積純利益×50%」の部分が「ビルダー(builder)」と呼ばれる所以で、黒字を計上するたびに枠が積み上がっていきます。多くの契約では、赤字の期があれば累積純利益自体がその分減少するため、枠の増加ペースが鈍る、あるいは残高が目減りする設計になっています。これに加え、普通株式の新規発行による調達額や、一定の資産売却代金の未使用分なども枠に加算されるのが一般的です。
整数設例で確認する
設例(架空数値、単位:百万円)。LBO実行時のビルダーバスケット当初設定額を200とします。
- 1年目の当期純利益:600/2年目:800/3年目:-100(赤字)
- 3年間の累積純利益:600+800-100=1,300
- 累積純利益の50%:1,300×50%=650
- この間に実施した普通株式の追加発行による調達額:150(全額を100%算入)
ビルダーバスケット残高 = 200(当初)+650(累積純利益の50%)+150(株式発行分)=1,000。ここでスポンサーが700の配当を実行すると、残高は1,000-700=300に減少します。3年目に赤字を計上したことで累積純利益への繰入額の伸びが鈍った点、株式発行が枠を追加で押し上げた点が、この設例のポイントです。
契約条項への影響
ビルダーバスケットの残高が十分にあっても、多くの契約では配当等の実行に際して「デフォルト(期限の利益喪失事由)が発生・継続していないこと」「一定のレバレッジ比率テストをクリアすること」といった追加条件が付されます。したがって、ビルダーバスケットは配当リキャップの必要条件の一つであって、それだけで実行が保証されるわけではありません。EBITDAアドバックの交渉次第でレバレッジ比率テストの結果自体が変わるため、両条項は密接に関連します。
財務モデル・Excelでの使い方
- 3表連動モデルの外側に「コベナンツ・トラッキングシート」を設け、各期の当期純利益から累積純利益を計算する行を作る
- ビルダーバスケット残高の行を、
=当初設定額+累積純利益*50%+累積株式発行額-累積使用額という数式で組み、期ごとに更新する - 配当リキャップのシナリオ入力セルを別に用意し、「残高が配当額を上回っているか」「レバレッジ比率テストをクリアしているか」の2条件をチェック関数で判定する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「ビルダーバスケットは配当リキャップにしか使えない」→ 正しくは、自己株買いや劣後債務の任意期限前弁済など、契約上定義された制限支払い全般に充当できます。
誤解2:「バスケットは時間の経過とともに必ず増え続ける」→ 正しくは、赤字の期には累積純利益が減少するため、残高の増加が鈍る、あるいは減少する設計になっています。実務家は、累積純利益の算定基礎(一過性損益の扱い等)を必ず確認します。
日本実務での扱い(2026年8月時点)
日本のLBOローン調達は銀行によるシンジケートローンが中心で、米国のハイイールド債・レバレッジドローン市場ほどビルダーバスケットのような累積型条項が精緻に発達しているわけではありません。もっとも、大型のクロスボーダー案件やスポンサーの交渉力が強い案件では、米国式のクレジットアグリーメントに範を取った条項が導入される例も見られます。個別の融資契約の文言は当事者間の合意に基づく私的自治の範囲であり、法令上の統一基準があるわけではない点に注意が必要です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:ビルダーバスケットとは何か、なぜLBO後の配当リキャップの実行可能性を左右するのか説明してください。
「ビルダーバスケットは、借入人の累積純利益等に応じて積み上がる、配当等の制限支払いに充当できる契約上の枠です。累積純利益がプラスであれば枠が増え、その範囲内であれば配当リキャップが可能になります。ただしレバレッジ比率テストなど他の条件も満たす必要があるため、枠があること自体が実行を保証するわけではありません。」(30秒回答例)
深掘りでは「赤字の期があった場合の枠への影響」「他の制限支払いバスケットとの併用の考え方」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. ビルダーバスケットが枯渇したら配当は一切できませんか?
A. 契約によっては、ビルダーバスケットとは別に、一定の固定金額まで無条件で使える「ジェネラルバスケット」が併存することがあります。両方の枠を確認する必要があります。
Q. 累積純利益の計算に一過性損益は含まれますか?
A. 契約の定義次第です。実務では、減損損失や資産売却益といった一過性項目の扱いをめぐって、借入人とレンダーの間で解釈が分かれることがあるため、契約書の定義条項を正確に確認する必要があります。
出典・参考(2026-08確認)
- 全国銀行協会(シンジケートローン契約実務関連情報) https://www.zenginkyo.or.jp/
- 日本証券業協会(社債・ローン契約慣行関連情報) https://www.jsda.or.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。